下町大衆酒場物語 第十二回 みますや 神田

ぞうり履きの時代から東京を見つめ続けた、日本最古の居酒屋

創業明治38年(1905年)、現存する居酒屋の中では日本最古といわれている『みますや』。長続きした理由は何なのか。店主の岡田勝孝さんが話す。

「大上段に構えて話せるようなことは何もありませんよ。店を潰さないように、毎日、のれんを出し続けてきただけですって(笑)」

開業は日露戦争に勝った直後だから樺太などの海産物が安く「お客さんに『また数の子か』と言われたらしい」という逸話が残る。昭和の戦争の時は店先で万歳の声に送られ、常連客が出征していった。

「学生紛争の時は、機動隊の人たちと学生がひとしきりやり合った後、たまたま両方飲みに来て、店で鉢合わせ、なんてこともありましたよ(笑)」

料理はその時々でおいしいものを仕入れて出す。隠し味は信頼関係=B毎日顔を合わせる魚河岸の人間や食材卸と長い付き合いがあるから、よそでは食べられない特別な素材や新鮮な食材が出せる。そのお味やいかに、と特上さくら刺を箸ですくい舌に載せると――なるほど。さっぱりした脂≠ニしか言いようがない風味がパアッと口中に広がるではないか。店主が「昔からこの味です」というやながわなべをつつくと、こちらはプリッとしたどじょうとごぼうの風味がしっかり支え合う濃いめの一品。すかさずキュッと冷えた焼酎ハイボールを流し込むと、心地よい風味と泡がのどをうるおしていく。

「うれしいのは、上司に連れられて来て、おごられてた若い人が、そのうちおごるようになって、週末に奥さんを連れて来て……なんて姿を見る瞬間ですね。あれは、何とも言えない」

時の流れをいつくしむ、それが長続きの理由なのかもしれない。

手前が特上さくら刺2000円、奥が、やながわなべ800円。旬の刺身と、冬の鍋なども人気が高い。店は広いが、テーブルにはお客さんの名前が貼られ、ほぼ予約でいっぱいだ

「みますや」
関東大震災、東京大空襲、バブルの地上げも生きぬいた神田の名店
東京都千代田区神田司町2-15-2
03-3294-5433
11:30〜13:30 17:00〜22:30
日・祝
  • ※ 2014.6.11 掲載分
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