下町大衆酒場物語 第十六回 鳥万 蒲田

唐揚、ドーン! 蒲田の名店がぶれずに守り抜いた雰囲気と味

ガヤガヤした活気は大衆酒場の心地よいBGMだ。鳥万は、これがとくにすばらしい。のれんをくぐると「さあ飲め!」と言わんばかりにメニューが並ぶ。店員さんも忙しいとき、「少々お待ちください」ではなく「ちょっと待ってて!」と接客する。勢いがいいから、いつもワイワイしていて居心地がよいのだ。店主の奥山稔さんが話す。

「親父が50年ほど前、(当時から工業地帯だった)蒲田の工員さんたちに安くおいしく飲んでもらおうと開業した店です。当時はスーツの方が飲んでいると『また安い店で』と言われてしまう雰囲気もあったんですが、どの時代もガヤガヤした空気が好きな人はいるんでしょう。内装も価格帯もずっと変えずに続けてきたおかげで、今は会社員や女性まで来てくれます」

当店の自慢のメニューは若鶏の唐揚。手羽と手羽元が一緒になった肉と、巨大な鶏胸肉をカリッと揚げ、ドーン! と盛った一品だ。大きく口を開けて頰張ると風味がまた濃厚で、あっさりした「焼酎ハイボール」と見事なまでによく合う。さらには鶏煮込み豆腐。生姜などで丁寧に下味を付けた鶏皮の脂が、アッツアツの豆腐とよく絡むこと! 口に広がった風味に自慢の濃いめの「焼酎ハイボール」を流し込むと、この取り合わせが50年間愛されてきた理由がよくわかる。

「うちの『焼酎ハイボール』は濃いめでしょ? 以前、親父が『普通にしないの?』と聞かれていたんですが、『おいおい、楽しく飲んで、もういっぺん来てもらう方がいいに決まってるじゃない!』と返していた。確かにその通り! ですよねぇ(笑)」(奥山氏)

この雰囲気も味も、50年間、お客さんと二人三脚で培ってきた店なのだ。

若鶏の唐揚(420円)と、鶏煮込み豆腐 (300円)。メニューはどれも安く、夕食時に気軽に立ち飲みをしていく常連も多い

「鳥万」
東京の下町・蒲田の有名店。4階建てのビルが飲んべえで埋まる
東京都大田区西蒲田7-3-1
03-3735-8915
月〜土曜16:00〜23:00、日・祝は15:00〜22:00
正月
  • ※ 2014.11.10 掲載分
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