下町大衆酒場物語 第十七回 酒喰洲 馬喰横山

目利きの店主が浜で仕入れた鮮魚を天城産わさびでいただく「本物」の店

プリプリの北海道産ボタン海老を頬張ると、海の幸が豊かな国に生まれて良かったと笑みがこぼれてしまうほどに甘い。千葉産のブリの刺身は、脂がのっていて、独特のやさしい風味が香る。気構えず食べようものなら、ガツンと驚かされること請け合いだ。

だが店主の櫻井満さんは、人なつこい笑顔でこう話す。「普通のことしてるだけですヨ。市場でいい魚を買ってきて早くさばくんです」

その「普通」のレベルが違うのだ。そもそも櫻井さんは漁師から直接、水揚げしたばかりの魚を買い付け、高級料理店などに納めていた目利き。すべて天然魚で、養殖、輸入ものは一切なし。マグロ以外は冷凍ものも出さない。

しかもわさびは、伊豆・天城産のすりたて。パンチが効いているのに甘い「本物」の味がする。

酒にもこだわっている。「うちの『焼酎ハイボール』は宝焼酎『純』の35度。樽貯蔵熟成酒を使用しているから、魚料理に合うんです」

その「焼酎ハイボール」を店主が勧める両国煮込と合わせてみる。千葉・和田港などでしか水揚げできないつち鯨を、江戸期に将軍肝いりで造られ始めた甘みそで煮込んだ品だ。まず鯨肉を頬張ると、店主が「つち鯨は煮込んでも柔らかいんです」と言う通り、かむとほそっ≠ニ崩れる。その瞬間だ。染みこんだ味噌と、鯨の懐かしい味が徐々に広がり始め、思わず目を閉じてしまうほど旨い。ここで「焼酎ハイボール」をグッといくと、ドライな飲み口と、つまみの味が鮮やかに混じり、「えもいわれぬ」の一言しかない……。

ほかにもこの店、刺身のぽんずにまで、こだわりは枚挙にいとまがない。店主いわく「普通」。だがこの店、どう考えても本物だ。

写真はボタン海老刺(580円)、ショウサイふぐ刺(380円)、ぶり刺 (380円)。お好み盛合せは、好きな魚を3点選ぶと100円引き、5点選ぶと200円引き。両国煮込630円。純ハイ400円

「酒喰洲」(しゅくず)
お店の表札は「近藤勇」。貸し主がたまたま、この名前とか
東京都中央区日本橋久松町2-10
03-3249-7386
月〜金17:00〜ラストオーダー22:30
(土は〜22:00)
日・祝
  • ※ 2014.12.08 掲載分
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