下町大衆酒場物語 第五回 だるま 門前仲町

「肉豆腐、イッパァーツ!!」美人姉妹のかけ声が響く店

冬の寒さで曇った引き戸を開けると、肉豆腐をクツクツ煮るうまそうな匂いが鼻をくすぐる。裸の蛍光灯が、懐かしの黒電話や、壁の古いポスターを照らす。その奥で店の切り盛りをするのは、ちょっと驚くほどの美人姉妹だ。

彼女たちがこの古い店に立っている理由は、4年前に他界した創業者・江家脩氏の娘だから。ただし、それだけでもないようだ。

「世の中には安くて、きっちり同じ味のものが出てくるお店がいっぱいあるでしょ? 一方ウチは安くもないし、私と妹で料理の味が変わっちゃう(笑)。でも、みんな同じ服を着て、同じ料理を食べる世の中も、ねぇ……。だから、こんな店があってもいいと思って昔のまま続けているんです」

一風変わった注文の数え方もそのままだ。常連客たちがふざけて「マグロブツ、イッパァーツ」などと注文するうち、品物を「何発」と数えるようになったのだ。そこで「チューハイ、イッパツ!」と頼むと、焼酎を炭酸で割った、辛口でキレ味爽快な焼酎ハイボールが出てくる。これを傾けつつ、カウンターの大鍋で煮込まれたあっつあつの肉豆腐をハフハフ頬張れば、濃いめの味を濃いめの焼酎ハイボールが支える、えもいわれぬ下町の味。次第に酔いが回り、店のざわめきがBGMのように聞こえてくる。

そして去り際、この姉妹はちょっとしたこだわりを見せてくれる。「店が混んでいる時は無理」ではあるが、わざわざのれん際まで送ってくれるのだ。

「店が長く続いてきたのは、隣の人とすぐ仲良くなってくれるようなお客様のおかげですから」

決められたレシピなんか、なくていい。これこそ本当の店の味≠ネのだから。

マグロブツ(600円)は、トロと呼ぶべき脂がのった部分も混じった濃厚な味わい。肉豆腐(600円)も、飴色に煮こんだ玉葱と、味がしみこんだ肉が豆腐を引き立てる濃厚な一品。大鍋一杯の肉や玉葱を炒め、時間をかけて毎日煮込んでつくる。

「だるま」
国内産の素材にこだわり、板前さんと姉妹が長時間かけて仕込んだ手料理が自慢。
東京都江東区門前仲町2-7-3
03-3643-4489
16:30〜23:00
不定休
  • ※ 2012.12.20 掲載分
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