下町大衆酒場物語 第六回 きよし 堀切菖蒲園

「お客さんに誉められたい」の思いを貫き続けて半世紀!

まだ陽が高い時間から超満員。店の移転で3ヵ月ほど休んだ時は「きよし」に行けず困った「きよし難民」が街にあふれたというほどの人気店だ。

店主の後藤恵子さんが店を開いたのは、ちょうど50年前のことだという。

「浮沈もあるのよ。たまたまお客さんが少ない日が2〜3日続くと、“もうこのお店も年貢の納め時なのかな”って寂しくなるし……。でもお客さんが帰り際に“オタクぁ安くておいしいねェ”なんて言ってくれると、この店をやっててよかった!と思いますしね」

彼女の話を聞くと、浮沈の“浮”も“沈”も、基準はお客さんの評価であることが面白い。

「きよし」が人気の理由は、ズバリ「安くて旨い」こと。紹介したメニューのほか、自家製のしめさばは、脂が乗ったサバのみを仕入れ、身の状態によってしめ方を変える手の込んだ品。これが一皿250円!

「あじのたたきは、河岸で魚を仕入れる時の目利きと捌き方がポイントなんです。骨がくだけて身に入っちゃよくないけど、骨の近くの身もちゃんと食べてもらった方がいいのよね」

誉められたくて、地道に50年続ける、その偉大さがわからぬ人間はこの酒場にはいないだろう。そんな半世紀もの思いがこもった料理を焼酎ハイボールでいただく。料理はいずれも、のんべえたちのために風味が強め。これが焼酎濃いめで辛口の焼酎ハイボールと最高によく合う!

まわりを見渡せば、お客さんたちの幸せそうな赤ら顔。ふと招き猫を見れば、そこには“きよし愛飲会一同”の文字が。なるほど、常連から贈られたのか……とわかった瞬間、愛情は通じ合うものだと実感し、旨い酒がさらに旨くなった。

写真の湯どうふ(450円)は、豆腐、ネギ、白菜、春菊とシンプルな具材ながら、ゆずの風味がふわっと香り、箸が進む一品。あじのたたき(280円)は、鮮度にこだわって仕入れ、丁寧におろした品だ。ほかにも100種類以上のメニューが手頃な価格で楽しめる。

「きよし」
つまみの多くが200円台。なのに手間をかけた味に「感動した!」と話すお客さんが多い。
東京都葛飾区堀切5-23-6
03-3690-9947
13:00〜22:00(金、土は3:00まで)
無休
  • ※ 2013.1.28 掲載分
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