BS-TBS「〜癒・笑・涙・夢〜夕焼け酒場」 毎週土曜よる6:00〜6:30 BS-TBS 2014/4/26放送 #3 とよ田

大きな力士がはじめた小さな店タレが焦げる煙と香りに包まれ続けた60余年
「氷と炭酸水は買ってきて」という持参システム

東急大井町線の等々力駅のすぐ近く。小さな商店が軒を連ねる一角にある、大衆酒場「とよ田」を一目見た、きたろうさんは思わずこうつぶやいた。「なんでのれんを変えないんだよ」

黒地に白の筆文字で「もつやき」と抜かれた、ボロボロののれん。あちこちが破れ、布テープやセロテープで、なんとかのれんの体裁をなしているような有様。しかし、そんなのれんをくぐるとカウンター13席の店内には、もつ焼きのタレが焦げる香ばしい匂いと煙が充満し、注文と話し声が飛び交う。「さぁ、飲もう!」と焼酎ハイボールをオーダーすると、ご主人の三上さんが「焼酎とお水とお湯は出すんですけど、氷とか割るものは皆さん買ってくるんですよ。そういうシステムなんです」と言う。これには、きたろうさんも西島さんも絶句! サービスと笑顔が大安売りのご時勢に、この接客で店は満員。よほど旨くなければ道理が通らない。さぁ氷と炭酸を買ってきて、注文だ、注文だ!

淡々と仕込み、淡々と焼き続けるご主人の矜持

「とよ田」の料理は、もつ焼きのみ。種類はカシラ、シロ、ガツ、ハラミ、タン、ハツ、レバーのほか、変わった部位も楽しめる。「炭火で焼いてるのを見ながら食べるってぇ。ワクワクしますねぇ」という西島さんときたろうさんは、まずカシラから注文。カシラは豚のこめかみ付近の肉。クセがなく、肉の旨みもあり初心者にはうってつけ。次いで定番のレバーを焼いてもらう。備長炭の強い火力で、丁寧に焼かれるレバーは、外はカリッと中はジューシー。このレバーと焼酎ハイボールに勝てる組み合わせはそうはない。「レバーはなかなか家で食べられないからね」と心待ちのきたろうさんを前に、ご主人は手早く焼いてタレを付け、最後に大皿のふちでトントンと串を叩き、余分なタレを落とす。大皿に落ちたタレは肉汁を含んでいるので、最後にタレに戻すのだという。そして注ぎ足しを繰り返し60数年、いや70年近く味が受け継がれている。

かなり年季の入った焼き場で、ご主人の三上さんは1人、淡々と焼き続けながら語る「この焼き場は先々代、女房のおじいちゃんの頃からのものでしてね」。お店の創業者は、店名にもなっている「豊田」というしこ名の力士、豊田兵蔵さん。引退後にもつ焼き屋を屋台から始め、その後ここ等々力に店を構えた。あのボロボロののれんは、その屋台時代からのものなのだ。「あれだけボロボロになるというのは、何人の人がくぐったかってことなんですよ」。その話を聞いて「じゃあ捨てられないわ。聞いたら凄いじゃん」と、驚くきたろうさん。そして、そののれんをくぐった客の中には昭和の大横綱や、三上さん自身もいたという。「私は近くの郵便局に勤めてて、この店によく来てたんですよ。その時は、先代の親父と親父の義理のおじちゃんの2人でやってたんですが、そのおじちゃんが急死しまして。で、親父が1人でやると言ってたんですけど、調子が悪くなりましてね」。それをきっかけに、三上さんは3代目になることを決意する。

「うちの先代が面白かったのはね、等々力駅に電車が止まると、のれんの隙間から駅からおりてくる人を見るんですよ。それから店に掛けてある鏡で踏切を渡る人を見て、この店に来るなぁって察すると焼き始めちゃう。お客さんが座るとピタっと串が出る。それくらい親父はやってた」。「いやぁプロだねぇ。だからお客さんも裏切らないで来るんだね。そんな親父さんを見てるから、一生懸命努力してんだよ。じゃないとこの味は出せない。誤解してたよ。あの暖簾を見たら怠け者かと思ってさぁ」と、違った目でのれんを眺めるきたろうさん。そんな先代に、これだけは守れと言われたことがある。「休まず河岸に行けと。例えば河岸に行って、2日分仕入れてくれば、翌日に行かなくて済むじゃないですか。でもそれはダメだと。毎日行ってその日の分だけ仕入れなさいと」。新鮮なものをお客さんに出す労を惜しんでは、喜んでいただけないという教えをご主人は忘れない。「あとひとつ、親父が言ったのはねぇ、仕事はねぇ飽きちゃダメだと。飽きるなと、それが“あきない”なんだと」

受け継いだのれんには、先代、先々代から受け継いだ味と、酒場の主人としての教えが染み付いている。そんな大切なもの、捨てられるわけがない。

その壱

宝焼酎を割る氷や炭酸水は、自分で買ってくるのがこの店のルール。
その弐

おいしいもつ焼きは、新鮮な素材はもちろんのこと、下ごしらえが重要。ご主人は毎朝8時半から店で仕込みにかかるという。
その参

もつやきは東京では馴染み深いが、それ以外では意外に知られていない。食べ慣れていない人や女性には、まずカシラ。慣れてきたらレバー。1本140円。
その四

先々代が屋台で商売をはじめた時からののれん。雨、風、雪に晒されても、いつもこののれんがお客さんを迎え入れてきたのだ。
その伍

先代の教えを守り、毎日芝浦まで仕入れにいく。「客がいれば休めない」と、雪の日でもタイヤにチェーンを巻いて車をとばすという。
その六

とよ田自慢の一品。丁寧な下処理を施したあと、表面を軽く炙り、刻みネギとともにご主人特製の酢醤油に絡めていただく。
きたろうさんから、とよ田へ贈る「愛の叫び」 プロは一生けん命、たんたんと  ———きたろう
「とよ田」
住所
電話
営業時間
定休日
東京都世田谷区等々力2−32−11
03-3701-4101
16:00〜21:00 ※モツ在庫限り
第2・4土曜・日曜・祝日
  • ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。

ページトップへ