BS-TBS「〜癒・笑・涙・夢〜夕焼け酒場」 毎週土曜よる6:00〜6:30 BS-TBS 2014/12/6放送 #31 うたげ

3歳から炊事場に立った女将が女手一つで守り続けた暖簾と熊本のお袋の味
店に溢れる一体感。その中心にはいつもお母さん

東京駅の東側、八重洲口から歩いて5、6分のところにある酒場「うたげ」。「馬刺し」と書かれたのぼりを目印に、小さな入り口から入ると、女将・植田満さんの笑顔が迎えてくれる。若き日の美しさがうかがえる上品な顔立ちと、人懐っこい笑顔。その表情を見れば、常連客が植田さんを「女将」ではなく、親愛の情を込めて「お母さん」と呼ぶのもうなずける。この店では、客は誰もが「お母さん」の子供。いつものようにきたろうさんと西島さんが焼酎ハイボールで乾杯しようとすると、常連客が寄ってきて杯を打つのも、みな「お母さん」の愛情を受ける兄弟だからこそだ。

ここ「うたげ」はお母さんの出身地、熊本の郷土料理が食べられる店。熊本料理と言えば「馬刺し」と「からしれんこん」だ。先に出てきたのは、特製味噌を混ぜた辛子をレンコンに詰め、3分ほど揚げたお母さんお手製のからしれんこん。「運動会でもなんでも、重箱の中には必ず入ってたもんね。でも子供は大嫌いなのよ、こういうのが」と、お母さんは言うが、酒飲みにはたまらない。ツーンと鼻に抜ける辛みに「来た! 来た! 辛いけどうまい!」と、きたろうさんは大喜び。次に出てきた馬刺しに「値段だけあって、薄く切ってるね」と、きたろうさんが意地悪を言うと「これが食べやすいのよ。分厚いと困るの。噛み切れないと、飲み込まなきゃいけないでしょ。」と、お叱りを受ける。そしてきたろうさんが馬刺しを頬張ると、サッと表情が変わった。「うまい!うまい!うまい!う〜〜ん!」。実感を込めて3回「うまい!」を繰り返したきたろうさんの顔を見れば、そのうまさは推して知るべし、だ。

人生は素晴らしいと言い切る、波瀾万丈の道のり

お母さんが熊本の店を畳み、東京に出てきたのは36歳の時。最初は新橋に店を出したが、顔見知りのいない街で客は少なく、半年くらい閑古鳥の鳴く店で我慢の日々が続いたという。その後も神田で大衆割烹の店を開いたり、病気で店を閉めたりと、苦労は絶えなかった。「料理は小さい頃からやってたの?」と、きたろうさんが訊くと「3歳からご飯を炊いてました。母親が働きに出てたからね。柱時計のココに針が来たら火をつけなさいと言われて。まぁ、火をつけるだけだったけど、料理を作る運命だったのね」と、お母さんは語る。

次にいただいたのは、ちょっと変わったさつま揚げ。「うたげ」のさつま揚げは、きつね色ではなく、かなり色白の「白さつま揚げ」。しょう油はあえてつけずに、魚の旨味を楽しみたい一品だ。その濃厚な旨味に「味が濃い〜、おいしいです。これはお酒を飲んじゃいますね。幸せ!」と、西島さんが感激すると、お母さんが「わぁ、うれしい。料理で幸せって言われたら、こんな嬉しいことないよ」と顔をほころばせる。そして最後に熊本では団子汁と呼ばれる、すいとんをいただくことに。これは水で溶いた小麦粉を、鶏肉や野菜などと一緒に煮込んだ料理。一度母親に教えてもらい、中学の頃から家族のために作っていたという、まさに女将の味の原点ともいえる料理だ。熱々のすいとんを頬張ったきたろうさんは「昔のすいとんじゃないよ、これは。進化してるね、すいとんが」と、おふくろの味に満足気。

美味しい料理でみんなを笑顔にしたい、そんな想いでお店に立ち続けてきたお母さんだが、30数年前にご主人を亡くした時は、さすがに辛かったという。「笑えなかったねぇ〜。みんなが酔っぱらってるのを、白けて見てるんだよね。でも一方で、こんな顔してちゃ、お客さんに悪いって想いもあって。元に戻るまで1か月くらいかかったね」。そんなお母さんの当時の心情に触れ、思わず涙を流す西島さんが最後に訊いた。「女将さんにとって、人生とは何ですか?」。この質問に、お母さんは間髪入れずにこう答える。「人生って素晴らしいよ! 辛いことなんて無い。もう走って走って、走り抜くのが私の人生」。人一倍の苦労と努力を繰り返してきたお母さんの、この答えを聞いて、店に来る常連客はきっと思うだろう。
お母さんの子供でよかった、と。

うたげの流儀
その壱

かつては肥後藩主、細川氏の門外不出の栄養食だったという「からしれんこん」(700円・税込)。そして低カロリーで高タンパクの「馬刺し」(700円・税込)。熊本は健康と美容のグルメ県なのだ。
その弐

うたげのさつま揚げは、きつね色のものと異なり色が白い。魚の旨味が凝縮された、白さつま揚げは550円(税込)。
その参

すいとんというと、戦中戦後の食料事情の悪い頃に食べられた米の代用食のイメージが強いが、熊本のそれは団子汁と呼ばれる立派な郷土料理。具沢山で滋養たっぷりの、お袋の味。600円(税込)
きたろうさんから、うたげへ贈る「愛の叫び」 味を求めて走りぬく人生 うたげ  ———きたろう
「うたげ」
住所
電話
営業時間
定休日
東京都中央区八重洲1−4−9
03-3272-3522
17:00〜22:00
土曜、日曜、祝日
  • ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。

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