急速な街の再開発が進む一方で、街の風情や情緒を今も色濃く残す神楽坂。それは時の流れにしなやかに対応する、古くからの住人や商店によって守られている。ふと耳に入るお神楽に誘われるように、今回きたろうさんと西島さんが訪れたのは、焼き鳥専門店の「鳥しづ」。ひょうたんの描かれたのれんをくぐると、7つのカウンター席と女将の岩瀬浩子さんが迎えてくれる。女将と差し向かいの席に座り、17年来の常連さんというご夫婦と焼酎ハイボールで乾杯。
早速おすすめのテールとハツをお願いすると、焼き始めた女将が「ハツなんですけれど、みなさん不思議がるんです。この形のハツは見たことがないと。普通はスライスしてあるらしいんですけど、私はそんなことも知らず、肉の美味しさを召し上がるにはこれが一番だと思っておりまして」。この見慣れぬハツを頬張ったきたろうさんは「これはすごい食感だね」と感心しきり。常連さんが「お肉屋さんがやってる焼き鳥屋さんなんで、おいしいんですよ」と教えてくれる。実は、女将は神楽坂で90年続く鶏肉専門店「鳥静商店」の三代目。23歳で跡を継ぎ、44歳の時に念願だった焼き鳥専門店を開いたのだ。興味をそそられたきたろうさんは、「自分で刺してるの?」「(鶏は)捌いてないでしょ?」と、女将を質問攻め。しかし、全部やりますよと女将はニコニコ笑い「私が焼きたくて始めた店なので、お客様にこれを食べていただいたら、どんなに嬉しそうなお顔をなさるかと思うと楽しくて楽しくて」と言う。「なんだか苦労に見えないね。子供がおままごとしてる気分なんだね。天才なんですよある種の。努力が苦にならないのよ、天才は」と、きたろうさんも脱帽する。
鶏を熟知する女将が、店で出しているのは鳥取名産の銘柄鶏「大山鶏」。それを“素材にこだわればガスで十分”という考えから、炭ではなくガスで焼いている。「もともとプロではないので」と女将は言うが、脂の甘みを引き出し、プリプリの食感を出す焼き加減は特筆すべきもの。タレもあるのだが、味付けは塩がメインで、素材の良さを引き出すため塩気の弱い塩を使うという。そんな素材の良さを知るのに最適なのがトリスープだ。調味料を一切使わず大山鶏のガラを6時間、トロトロの弱火で煮込んだもので、これを一口飲んだ西島さんは、思わず「う〜、しみ〜る〜!」と絶叫。このトリスープを使った「焼きむすび茶漬け」は、常連さんが〆に必ず食べるものなのだとか。そして最後に、鳥しづの必食メニューとして出てきたのがナンコツ。普通ナンコツといえば1種類だが、この店では部位によって6種類もあるのだという。「この関節についてる肉がうまいねぇ。子供の頃から骨に付いてる肉が好きなんだよねぇ」と膝ナンコツを頬張るきたろうさん。2人の驚く顔、満足そうな顔を見ては、女将は満面の笑みをほころばせる。
しかし、老舗鶏肉専門店の三代目が店を開く事に、先代や周りの人から反対はなかったのだろうか? 「説き伏せました。全員を説き伏せました。お客さん来ないよって心配されましたけど、当たって砕けろです。ただお客様に喜んでいただけるように、それだけです。ず〜っと、その初心だけは忘れないでやっていきたいと思います」。そう言って笑う女将を見て「一生忘れないよ、その笑顔は」と、きたろうさん。たしかに、この料理と笑顔を見るために、足を運ぶ価値がある。
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絶妙の焼き加減で、素材本来の味が楽しめる2本。ハツは420円、テールは210円。
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ハツ(心臓)は、この形が一番おいしいと女将。口に入れたときの肉汁の広がりが違うのだとか。
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「上手な方が焼けば炭は本当においしいのですが、そうでないと焦げ目が炭臭くなる」と、女将はガスで焼いている。
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常連さんが、これを飲むと夏バテが吹き飛ぶと絶賛するトリスープ(370円)。
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先代は飲み屋がひしめく神楽坂で、成功するはずがないと大反対。しかし、女将の熱い思いは、揺るがなかった。
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ナンコツは膝ナンコツ(210円)など全部で6種類あるが、毎日全種あるわけではない。また、ナンコツ以外にもヒゾウ(320円)など珍しい部位もある。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都新宿区神楽坂4-4
03-5228-0778
17:00〜22:30
不定期11:30〜14:00
日曜・祝日・毎月7日・20日
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。