きたろうさんが「何回も来て、親しみが沸くよね」という、番組お馴染みの街、北区赤羽。昭和の風情が残るレトロなアーケード街で、きたろうさんが「あそこですよ! 馬刺しって書いてあるでしょ。僕、大好きなの。熊本直送だって、本場だよ!」と早くも興奮。カウンター越しに出迎えてくれたのは、店長の小嶋攝郎(せつろう)さん。期待の馬刺しに「こりゃ楽しみですねぇ」と言いながら、まずは焼酎ハイボールをグイッと一杯。「あー、うまっ」。
酒場の大将らしからぬ、穏やかな口調で勧められたのは「馬刺し三品盛」。熊本・阿蘇の山麓で放牧された馬の新鮮な肉から、赤身、ロース、コウネ(たてがみの下の脂身)の3つの部位が楽しめる。鮮度の良さが一目でわかる艶やかな刺し盛りは、ニンニクなどの薬味が付いていない。肉の旨みが味わえるように、甘みのある熊本の醤油と生醤油をブレンドした特製ダレでいただく。「なんともまろやか、美味しい! 脂の味が特徴なんですね。しかも薬味がないことで、それぞれの味の違いがよくわかる」と、西島さんもその味に感激。
馬肉に造詣の深い小島さんだが、聞けば熊本出身ではなく、生まれも育ちも東京の神田。以前はアパレル関係の会社で働いていたが、友人に頼まれ、退職間際に脱サラし、6年前に店を始めたという。「勇気が要りませんでした?」と訊くと、「酒場は、しょっちゅう飲んで慣れてたからね。なにしろこのうまい馬の肉が入るっていうんで、始めたんです。これを食べて“これなら商売になる!”って」味に惚れ込み、64歳で酒場という新天地へと飛び込む。この話を聞くだけで、味はお墨付きと言って間違いない。
さて、二品目のオススメは希少部位の「ビンタ刺し(ほほ肉)」。「よそじゃ食べられないですよ。噛んでると味がだんだん出てくるんです」と、ご主人。きたろうさんは、ひと口頬張り、感慨深げに「ビンタ食らったような旨さだよ!」と一言。さらに隣の常連さんから「馬のレバー刺し(1,100円・仕入れ次第の特別メニュー)」のおすそ分けにあずかり、「うまい! コリコリしてる!」と大絶賛。
馬肉グルメの饗宴は、まだまだ続く。お次は、上質な脂がのったバラの部分を、塩胡椒で味付けし、バーナーで香ばしく炙った「バラ炙り」。たっぷりと挽いた黒胡椒と、ワサビでいただく人気の一品だ。「お肉の味はさっぱりしてるんですけど、脂が多いので美味しい」と、顔をほころばせる西島さん。「食べ方も工夫しないと。ただお出しすればいいってもんじゃなくて、部位によって多少違うからね」。開店当初は、馬肉に馴染みがないお客さんばかりで、苦労したというご主人。ならばとスタッフに相談したり、時にはお客さんからアイデアをもらいながら、味にこだわり、メニューに工夫を凝らす努力を続け、人気店にまで成長させた。
最後の一品は、馬肉本来の美味しさを知ってもらいたいと考えた「しゃぶしゃぶ鍋」。生でも食べられるロースひもとバラひも(ひもとは各部位に付くひも状の肉のこと)を、スープにサッとくぐらせて味わう名物メニュー。肉の旨味が凝縮されたロースひも、脂身が美味しいバラひも。2種類の部位を満喫したきたろうさんから「あぁ、贅沢だなぁ」という満足の声が漏れる。お店は第二の人生だというご主人は、「やってよかったなと思っています。逆に、お客さんにうらやましがられますね。“俺も引退したらやりたいな”ってお客さんも、いっぱいいますよ」と語る。最後に、酒場へ通う身から、店主へ転身したご主人にとっての「酒場とは?」を訊くと、「人との出会いの場だから、すごく大切な場なんじゃないかな。みんな酒場ではイーブンじゃないですか。酔っ払って、すっかり忘れて、また同じ話を次の日にする」。でも、こんなにうまい馬肉を出す店だけは、絶対に忘れないのだ。