今回、一行が訪れたのは東京葛飾・亀有の「肴 磯ぎんちゃく。」。創業2年目、しかもご主人の山本将義さんは39歳という若さにもかかわらず、店は連日大盛況。その理由は、佐渡島から直送される旬の魚介類を使った絶品料理の数々。魚料理に期待を膨らませ、きたろうさんと西島さんは焼酎ハイボールで“今宵に乾杯”。お通しの「姫サザエの旨煮」(300円・税別 ※毎日内容は変わる)から、佐渡の海を味わい尽くす一夜が始まった。最初に出てきたのは、1週間に3回ほど佐渡から直送されるという鮮魚の「旬の刺身三種盛」。三種盛と言いつつ、のどぐろ、真あじ、ばい貝、あおりいかの四種盛で、お得感たっぷり。「甘い、甘い、甘うま!」と、のどぐろの美味しさに驚き、コリッコリッといい音を立ててばい貝を食べるきたろうさん。「みなさん“鮮度が命”って、鮮度が良ければいいと思っていらっしゃいますが、実は寝かして美味しいお魚があります。その時の魚の状態を判断して、お出ししています」と、ご主人は言う。
ご主人が料理の道に進んだのは24歳と、この世界では遅め。それまではロックバンドで音楽の道を夢見ていたという。常連さんによれば「大将は、魚を“さばく”のも上手いですけど、結構ステージの“さばき”も上手い」とのこと。故郷で両親が割烹料理店を営み、父が働く後ろ姿を見て育ったご主人にとって、料理の世界への転身は自然なものだった。「父に電話して“これ作りたいんだけど、どうやって作ったらいい?”って聞くと、嬉しそうに答えてくれるんですよ。“なんだよ、そんなことも知らねえのか”って」。それを聞いて「そうやって、半分親孝行してんだな」と、きたろうさんが微笑む。
次は佐渡島名物の珍味「ふぐの子の粕漬け」。ふぐの卵巣を2年間塩漬けにし、さらに粕漬けにしたそれは、きたろうさん曰く「フォアグラなんて目じゃないよね」。常連さんも、こうしたほかでは食べられない味にハマった人が多い。また「おいしい料理なのに、大将が偉そうじゃない。客がどういうものを食べたいのか、考えてくれるの。だからすごく気分がいい。鼻歌を歌って帰る感じ」と、ご主人の人柄に惚れる人も多い。
続いては高級魚で、佐渡では“はちめ”とも呼ばれる「赤メバルの煮付け」。そのうまさに、煮付けの皿を独り占めしようとするきたろうさん。「この煮付けの何がすごいって、お酒が飲みたくなるのがすごい。普通は“ご飯!”って感じになるじゃんよ」。煮付けは難しいというご主人は、自分の腕を「まだまだ」と謙遜しつつ、優しい味を目指しているという。「店に、ご両親が来られたことはあるんですか?」と西島さんが訊くと、「あります。本当に運よく、その日は満席になりまして、非常に喜んでいました。父親は職人気質で、ダメな時はきっちり言う方なんですよ。でも、その日は何も言わなかったです」。きたろうさんは「きっと、“これは佐渡(の味)だ”って思ったんだよ」と言う。
最後の料理は、看板メニューの「鮮魚のしゃぶしゃぶ」。この日の鮮魚は、ご主人が「これ、お刺身でもバリバリ美味しいものです」と太鼓判を押す、立派なヒラマサ! 切り身が薄く白く色付くぐらいに、しゃぶしゃぶと出汁にくぐらせて、ちょんと軽くポン酢を付けていただく。ブリに似た脂ののり方で、柔らかい身に「う〜ん、あ〜、うまい!」と、きたろうさんもうまい表現が見つからない。羨ましがる常連さんに、ひとつおすそ分け……とはいかず、「これは予約制だから」と、意地悪を言うきたろうさん。その気持ちも分からないではないほどの絶品メニューなのだ。西島さんが「ご主人にとって、酒場とは?」と訊ねると、「居心地のいい我が家」と答えるご主人。東京から遠く離れた日本海の佐渡島。しかしこの店に来れば、佐渡の海の幸を通してご主人の実家にお呼ばれに来ているような気分になる。そんな肩肘張らない空気感は、確かに“我が家”の空気感のようだ。