東京荒川区、町屋の住宅街にある渋い構えの酒場「あつめ」。店には古美術商でもあるご主人、宮下岳彦さんが選んだアンティークが並ぶ。まずは常連さんと、今宵の出会いを祝して焼酎ハイボールで乾杯。早速、オススメの一品をお願いすると「色々ありますけど、一番は油揚げですね。油揚げはね、揚げる前のものを頼んでるんです。それを自分のところで揚げる」と出てきた油揚げは、ふかふかのアッツアツ。「料理はシンプル・イズ・ベストで、そのまんまの方が一番うまいですよ」というご主人に、西島さんが「初めての感覚。また、香ばしいからネギが合うわ」と、厚揚げにかぶりつく。
「店は今年で55年目ですね。僕は3代目です。おばあちゃん、お袋で、僕」。実はご主人、調理学校を卒業後、アメリカで修行を積んだという経歴の持ち主。「給料がやっぱりいいんですよ。あの時で1,000ドルだったかな。日本円で30万くらい。アメリアンドリームというやつで、行けばどうにかなるだろうって……」。24歳で単身アメリカへ渡り、ニューヨークやフロリダの鉄板焼レストランで修行を積み、45歳の時にフロリダ州オーランドに念願のお店「Atsume」を開業。お店は地元の新聞にも取り上げられ、大成功。びっくりするような著名人も店に訪れたという。しかし、その成功の陰には、ご主人の母・光子さんの助力があった。「“俺、人に使われるのが嫌だから店を出したい”っていうから、こっちからいろんなものを送ってやって。ついでにお金が足りないって言うから、送ってやって……」と、笑うお母さん。「立派だねぇ。いいねぇ、お母さんかっこいいね。親子関係が分かりました。息子はお母さんに頭が上がんないね」と、きたろうさんが笑う。店を切り盛りしていたお母さんが体調を崩したのを機に、ご主人は帰国。今も店の暖簾を守っている。
次は、先々代のおばあちゃんからの味を守っている「おでん」。きたろうさんは、大好きなじゃがいもを食べて大満足。西島さんが「関東のおでんと、全然違いますね。味がしょっぱくない。優しい出汁」と言うとおり、この店の出汁は関西風。昆布と煮干し、かつお節を使った上品な出汁が、しゅんしゅんと染みたおでんは、どれもお酒にぴったり。
と、ここまでは和食メニューだったが、次はご主人の真骨頂、アメリカの味が登場。「バッファローチキンです。ニューヨーク州のバッファロー地方のソースなんですけど、それをチキンにかけて食べるんです。ちょっと辛いけど、うまいですよ」と出してくれたそれは、揚げたての手羽中にソースがたっぷりかかった一品。女将のゆみ子さんに「もしよろしければ、手づかみの方が美味しいかも」と勧められ、頬張ると鶏の旨味とソースの辛味が口に広がる。「この辛味がおいしい! これは日本に無い味」と、さっそく西島さんがソースの味にハマったようだ。
〆の一品はピザ。と言っても一筋縄ではいかない「ロシアンルーレットピザ」。生地から手づくりするこのピザは、自家製のトマトソースをたっぷりと塗り、トマトやピーマン、マッシュルームなど5種類の具材をトッピング。さらにロシアンルーレットピザを希望のお客さんには、秘密の赤い具材をプラス。これをロシアンルーレットよろしく、当たりハズレを楽しむというもの。と、ここで西島さんが一枚目にして当たりを引く。「あれ、辛いよ。これ辛い。辛いよ! あ〜辛ぁ〜い!! じわじわくる」と絶叫。秘密の赤い具材とはハバネロのこと。グループで来たお客さんが、盛り上がること間違いなしの人気の一品だという。料理を囲んでみんなが盛り上がる、そんな酒場の雰囲気が大好きだというご主人。「分け隔てなく、皆で平等に喋ってワイワイガヤガヤって感じがいい。酒を飲むと人間ってだいたい本音を言うじゃないですか。そういう、人と人のつながりが大切だと思うんです」。日本とアメリカ、場所は違えどもお酒を楽しむ気持ちは同じ。その気持ちがあれば、いつだって人は幸せになれるのだ。