「夕焼け酒場」では、年季の入った店を訪れる事が多い。しかし、今回はまだ木の匂いが漂う真新しい店。見るからに誠実そうな表情の二代目主人・一寸木(ちょっき)広樹さんが作る絶品料理と、二代目の母親で女将のキミヨさんの笑顔で、連日賑わう「料理屋 なすび」は、実は酒場激戦区の錦糸町で創業47年の歴史を誇る名店だ。まずは焼酎ハイボールで乾杯し、おすすめの「えびみの揚」をいただくことに。「(揚げた姿が)蓑のように見えるの、おしゃれだねぇ。うーん、しっとり美味しい」、「サクサクのジャガイモの中に、モチモチのエビが入ってるの、美味しいですね」と、2人は大満足。“みの揚”という和食の技法を使ったこの一品だけで、二代目の腕の確かさが分かる。
もともと錦糸町駅の南口の方で、先代と女将が長く店を営んでいたが3年前に再開発で立ち退くことに。先代と女将は年齢の問題もあり、一旦は暖簾を畳む決意をするが、それに反対したのが、3人の子供の末っ子で、のちに二代目となる広樹さんだった。二代目は高校卒業と同時に、料理の世界に飛び込み、日本料理店の厳しい現場で18年も腕を磨いた。「修行は厳しかったです。大変でしたけど、野球をやっていたんで、その辛さとそんなに変わらなかったです」と微笑む。店を残したいという強い思いを胸に、慣れぬ物件探しに奔走して1年半後、二代目は今の場所に再び「料理屋 なすび」の暖簾を掲げた。
次の料理は、店名にもなっているなすびを使った「米なすべっこうあんかけ舞茸天のせ」。「あんがトロトロしてるよ。なすっていうのは、どうやっても美味いもんだね。失礼だけど」と、きたろうさんが笑うと、「いやぁ、茄子の食感とあんかけが目茶苦茶あいますね。美味しい」と、西島さんが二代目の腕前を褒める。先代の時は肉味噌を掛けていたというが、和食の技を磨き上げてきた二代目は、その味をオリジナルと呼べるほどに仕立て直した。「“親父の方が美味かった”とか言われない?」と、きたろうさんが聞くと「最初は多少そういう声も聞かれましたけど、今は一切ないですね」と二代目。古くからの常連さんも「むしろ息子さんの方がね、新しいものを作る創造性がある。料理の種類も増えたしね」と、そのセンスを褒める。
次のオススメは「あんこうの旨煮」。あんこうの濃厚な旨味が出た絶品の出汁と、たっぷりの具が、お腹の中からじんわりと体を温めてくれる。「うーん、あー、美味い。あんこうを食べると、こうあったかい、幸せな気持ちになるね」、「プリプリしていますね。これは沁みる。美味しいですね」と2人はホクホク顔。
最後はこの店の一押しメニュー「黒豚しゃぶしゃぶ」が登場。すっきりとした油が口の中でとろける、鹿児島産の黒豚を使用した、二代目のこだわりメニューだ。「ある程度しっかりとしゃぶしゃぶしたほうが美味しいんだよね」というきたろうさん。ひと口頬張り「甘みがあるね」と、その肉の良さにびっくり。「油の感じもちょうどで。するすると入っちゃう。結構量が食べられますよ」と、西島さんも箸がどんどん進む。
「お客さんが帰るときに“美味しかったな”と言ってもらうのが一番嬉しい」と語る誠実な二代目。「ご主人にとっての酒場とは?」という、いつもの西島さんの問いに、これまた真面目に「仕事終わりに、仕事を忘れてみんなで言いたいことを言える場所」との答え。そんな二代目に「もうちょっと不良になんなきゃダメだよ」と、きたろうさんが笑いながら不良を勧める。でも、二代目の誠実さこそが、この店の何よりの旨味である事は間違いない。