東京都港区の新橋駅前ビル1号館は、周辺で働くサラリーマンが仕事終わりに一杯立ち寄る酒場街。その店の数、何と82軒! この酒飲みのパラダイスで、4年前に開業したのが「居酒屋 蟹喰楽舞」。店を切り盛りするご主人・三戸聡人さんに焼酎ハイボールをお願いし、常連さんと乾杯。「まずはうちのお通しからどうぞ」と、出された丸々一杯の毛ガニにビックリ。北海道出身の西島さんは「誕生日のケーキを、毛ガニにしてもらってたんですよ」というほどの毛ガニ好き。すべての身をほぐして、カニ味噌と和えて一気に頬張る。西島さんのホクホク顔を見て「こういう人がいると、すごくありがたい」と、ご主人の顔も緩む。
北海道の旬の魚介が食べられると人気の蟹喰楽舞だが、ご主人の出身は埼玉で、もともとイベント会社を経営していたという。「函館に十数年来の友達で、カニ問屋の社長がいたり、あと市場の人とも交流があったんです。飲んでる時に“これだけのもの、東京で食べられたら絶対に流行るだろうな”と話したら、“みんなそう言うけど、誰もやらねぇ”って。“じゃあやりますよ”、“やれやれ!”みたいな。それが始まりです」。やりたい事は、必ずやらないと気が済まないご主人は、45歳にして新橋に店をオープン。「店は新橋、新宿、池袋で探しました。家賃が高くても、人が多いところに出さないと、土俵に上がってない気がして」というご主人に、きたろうさんが「それで新橋に殴り込んだわけね」と返すと「殴り込みというか、入り込ませていただいたという感じで……」と笑う。そんなご主人の姿を見てきた奥さんは言う。「何の相談もなく突然始めて、勝手にどんどんやるんです。楽しそうにやってるんで“まあいいか”って感じですね。元来、主人はものすごく食いしん坊なので、天職なのかなと思います」。
カニは週に2、3回。魚は毎日、朝とれのものが北海道から届く。その新鮮さゆえに出せるのが、次の一皿「真鱈の生白子」。「真鱈の“生”白子! ごめんなさい! テンション上がっちゃった」と、その珍しさを知る西島さんが声を上げる。ボイルや焼きの白子ならいざ知らず、生の白子はそうそうお目にかかれない。濃厚なのにさっぱりしたその味は、ひと口食べればその新鮮さが分かる。「(こんなに新鮮な白子が)手に入るものなんだね」と、きたろうさん。「やっぱり人のつながりです。いい縁に恵まれました」とご主人が言う。
次の料理は「八角の塩焼き」。北海道ならではの高級魚で、その身は刺身や焼きのうまさで知られている。ホロッとほぐれる白身を食べた西島さんが「新鮮でおいしい。味が濃いですね!」と、またまたホクホク顔。脂がのったこの季節の八角は抜群だ。
最後の一品は、やっぱりこれを食べないとシメられない「タラバガニの刺身と焼き」。「毛ガニも美味しいですけど、やっぱりタラバですね」と、ご主人が出してくれたカニを見て「うわー光ってる。うーん、喜びが抑えられない。なんて贅沢なの!」と西島さん。きたろうさんも「カニの王様。焼きは刺身のものを焼いてんだよ。何もつける必要がない。香ばしいよ。元来、カニの持ってる旨味っていうの……」。「そう! 濃さとなって、甘さとなって。もうとっても幸せ」と、言葉が止まらない!
店を広げたい、関西にも店を出してみたい。そんな夢も今のところ、ご主人は思いとどまっている。「大事にしてくれるお客さんたちに会えなくなったりするのであれば、これくらいでいいですよ。おかげさまでお客さんに恵まれて、嫌な思いとか、辛い思いをしたことがないんです。逆に楽しませてもらってる……。仕事をしながら“皆さんに成長させていただいてるなぁ”って。そんな気がします」。しかし、そんな風にお客さんがお酒を楽しめるのも、この抜群に新鮮な北海道の海の幸のおかげ。こんなにうまいものを前に、仕事の愚痴なんて言ってられない。だからこそ、店は常にいい空気で満たされているのだ。