若者の街、渋谷の道玄坂上。古き良き大衆酒場の雰囲気を若者風にアレンジして、連日大盛況の酒場がある。酒場「酒呑気 まるこ」を切り盛りする店長の磯村銀次さんは31歳。自ら「ピチピチです」と言うさばけた性格。いつものように焼酎ハイボールをお願いすると「うちは焼酎と外(割り材)に分かれていまして、ご自分で作っていただきます。こちらにある炭酸を取ってもらって……」と指差す先には、炭酸を冷水に浸した「どぶ漬け」が! 今やほとんど見られない、このスタイルが時代を一巡りして復活。乾杯して開口一番、きたろうさんの「やっぱ、自分の濃さがいいな」という言葉に思わず納得!
「季節のおばんざい作ってるんで、その盛り合わせから」と、店長が最初に出してくれたのは「ツナ玉ポテトサラダ」「チンピラ大根」「春菊とごぼうの白和え」「菜の花と車麩の煮びたし」という、実に酒好きの舌を押さえた取り合わせ。しかも自家製ツナに自家製マヨネーズと、かなり自家製にこだわっている様子。「うまい! もう、つまみはいらないね」と、ジャガイモ好きのきたろうさんはポテサラを独り占め。「素材は極力、国産にこだわっています。化学調味料は使わずに、お醤油もちょっとだしを引いて、だし醤油にしたり、人が気づかないようなところにこだわっています」と言う。すかさず「じゃあ、お客さんに言わないんだ」と、きたろうさんに突っ込まれ「さりげなくアピールはします」と、笑う店長。若いのに酒場の“あ・うん”を心得ているようだ。
次はちょっと変わりダネの「まっ黒厚焼き玉子」。濃いカツオ出汁に浮かぶのは、文字通り真っ黒な厚焼き玉子。その色の秘密はイカスミで、ほんのり鼻の奥をくすぐる香りがまた良し! 西島さんの「お店の発想が、自由なんですね」の言葉に、これまた納得。
20代は、飲食店のアルバイトで生活していたという店長。5年前に常連だった吉祥寺の店で、オーナーの小島崇嗣さんと知り合い意気投合。そしてオーナーは、この店のオープンと同時に彼を店長に指名した。「大衆酒場が好きで、気軽に飲みに行けるところ、古き良き酒場を作りたい」というオーナーの願いが叶い、今では若い女性から年配の男性まで幅広い客を集めている。
さて、ここから「まるこ」名物の3品が続々登場。まずは色鮮やかな、キュウリの薄造り「カッパ」。フグのてっさのように、箸でつまんでいただくと、玉ねぎと広島レモンの爽やかな自家製ドレッシングと、キュウリのシャキシャキした歯ごたえがたまらない。「シンプル・イズ・ベスト、切ってるだけです」と店長は笑うが、なかなかどうして口直しに最高だ。続いては、オーナーが初めての高知旅行で食べて感動し、絶対にお店でやろうと決意したという「カツオの塩タタキ」。しかも、実際に店でワラを燃やし、焼きたてを出してくれる。鹿児島県産のカツオは新鮮そのもので、焼き加減も絶妙。これを食べて感動し、わざわざ高知出身の友人に食べさせたいと、また来店するお客さんがいるほどだ。そして最後のシメは鯛めし(1合・900円/税別)。高知県産の鯛と、長崎県木島平産の米を使い、注文を受けてから土鍋で炊き上げるというこだわりようで、そのお味は西島さん曰く「たまらんですよ、本当に。むっちりしてて!」。店員さんが着ている、おそろいのTシャツの「うまい白米」というプリントは、これのことだったかと、三たび納得。
若き店長に“酒場とは何か?”を訊くと「今日が終わって明日への活力。頑張ろうという気持ちや、笑顔にしていくような場所であれば」との答え。それを聞いたきたろうさん。「一番大事なのは美味しいもの出すことだよね。このカツオをだしてりゃ大丈夫」と断言。どうも、きたろうさんはカツオの塩タタキで、明日の活力が湧いたようだ。