きたろうさんにはアルバイトをしながら芝居に打ち込んだ青春の町、西島さんには初めて住んだ東京の町。中央線「荻窪」駅は、今も昔も夢を抱く人々が交差する場所だ。そんな駅の近く、「鳥もと」が今回の店。活気に満ちた店から、「いらっしゃい!」としゃがれた声を掛けるのは、店を支えて20年、北海道出身の大将・伊與田康博さん。「その声が直る時はないの?」と、きたろうさんが聞けば「全然ない! 枯れたまんま! 昭和枯れぇ〜すすぅ〜き〜!」と返す大将。パンチパーマにシュッと切れ上がった眉毛、極太フレームの眼鏡という強面とは裏腹な、ご陽気な人柄に飲む前から期待が膨らむ。
まずは焼酎ハイボールで大将と乾杯。最初のおススメを聞くと「あっさり野菜からいきましょうか」と、出してくれたのが万願寺唐辛子の素揚げ。軽く素揚げした万願寺唐辛子をショウガと鰹節、しょうゆでいただくのだが、新鮮な野菜が持つ青い香りと苦みがたまらなくおいしい。そこに「今、茄子を焼いてるから、ちょっと待ってね」と大将に負けない強烈な声と顔の店員さんが登場。こちらは厨房を担当する大将の弟の伊與田茂貴さん。ほどなく出てきた茄子は炭で焼いた香ばしさと夏野菜の甘みがたまらない!
さらにいたずらっぽい目をした大将が「きたろうさん、トンでもねぇ魚見てみる?」と2人を厨房に招き入れる。そこには実に美しい丸みを帯びた銀鱗の魚体。「これが究極の魚、鱒之介。まず築地にも入荷しないです」。鱒之介とはキングサーモンの和名で、北海道の太平洋岸でわずかにしか揚がらない高級魚だ。それだけでもすごいのだが、刺し盛り「食べくらべ」には、さらに幻の鮭・鮭児が加わる。鮭児とは5000匹に1匹しか獲れないという雌雄がはっきりしない未成熟の鮭のことで、全体にきめ細かくのった脂は絶品と聞く。「魚って塩水の中で生きてるでしょ、だから塩で食べるのが一番」という大将に従い、刺し盛りをいただいた、きたろうさんは「うまいねぇ、塩と絶妙に合う。しょうゆじゃないね、塩で正解だ」と、ご満悦。また「ハーフ3点盛」という刺し盛りでは、黒ソイ、ホッケ、マツカワガレイという、まず他では味わえない北の海の幸がセットに。なかでもコクがあって、飲み込む時に焼き魚の味がふんわり口に広がるホッケの刺し身は必食だ。こんな料亭並みの高級魚が気軽に食べられる鳥もとだが、かつては焼き鳥とお酒しかない店だったという。しかし店の移転により客足、売り上げが激減。大将は心機一転、故郷の漁師や漁業協同組合、水産会社の友達や知り合いに、力を貸してほしいと頼んで回った。確固たる関係を結び、昨年は市場で110本しか出なかった鮭児のうち72本を大将が買ったという。やがて魚のうまさも評判となり、店はまた軌道に乗った。
さて、次の料理だ。「西島さん、北海道の川に上がる小さい魚は何だったっけぇ〜?」「ししゃも!」「そ〜ら、ししゃも鍋出せぇ〜〜!」と店内に大将の声が響き渡る!出てきた鍋にはたっぷりの野菜と、正真正銘の北海道産本ししゃも。「香りからして初体験。さっぱりしたダシが出るんですね、ししゃもって」と、西島さん。頭の下あたりの苦みも旨いししゃもに無農薬の野菜。使う素材を知り尽くした大将だからこそ作り得た至高の一品だ。さらに「最後に究極なものを出してもよろしいでしょうか」と、うやうやしく取り出したのは椎茸。通常の2倍はあろうかという特大サイズの椎茸は、大将の故郷で育てられたもの。これをバターソテーにしたものを頬張ったきたろうさんは「フォアグラよりうまいよ」と大絶賛。厚い身の食べ応え、鼻に抜ける野趣溢れる香りは、まさに大衆酒場のフォアグラの名にふさわしい。
「大将はもっと儲けるね、チェーン店は出さないの?」と、きたろうさんが聞けば、「そんな気はさらさら無いですよ。手を広げると目が行き届かなくなって目指してる所まで到達できない。頂(いただき)へ行けないですから」と大将。まだまだ上を目指すという大将の心意気に「終わりだと思ってないんだよね。儲からないかもしんないけどさ」と、きたろうさんは痛快そうに笑った。
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大将のご両親が、所沢で育てた季節の無農薬野菜を安く提供。万願寺唐辛子素揚げ300円、焼き茄子300円(共に税込)
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独自のルートで仕入れた北の海の貴重な幸、それを色々食べられる刺し盛りは必食。食べくらべ1,000円、ハーフ3点盛り1,200円(共に税込)
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「魚って海の物、塩水の中で生きてるでしょ、だから塩で食べるのが一番」というのが大将の持論。
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本ししゃもは今や滅多に食べられない貴重な魚。スーパーで売られているものとは違う、ししゃも本来の旨さが堪能できる。ししゃも鍋1,200円(税込)
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北海道に暮らす障がい者の人たちが自立支援の一環として栽培が始められたこの椎茸。昨年はゴールデンサンマッシュ賞を受賞し、日本一の称号を獲得。その活動を支援するため、大将はこの椎茸をメニューに加えた。椎茸のバターソテー550円(税込)
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定休日 -
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03-3392-0865
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