葛飾区、京成立石駅の南口を出て立石仲見世商店街へ。昭和の風情を色濃く残すココは、東京でも指折りの酒場の聖地。アーケードを進むと看板も引き戸も無い酒場「鳥勝」が現れる。「看板が無いじゃない?」と問うと「内緒でやってる」と、いたずらっぽく笑うご主人の倉持勝利さん。店を一人で切り盛りするご主人は、若々しく男前で、御歳78歳には見えない。早速、焼酎ハイボールで常連さんと乾杯し、最初のオススメ料理「もつ煮込」をいただくことに。常連さんが席に座ると、まず「もつ一丁、ちょうだい!」と注文が入る人気メニュー。きたろうさんが、お隣の常連さんに「料理はうまいの?」と訊くと「つまみは、それなり」という答え。でも、その言葉を額面通りに受け取っては、この酒場は楽しめない。出てきたもつ煮込は柔らかく、味が染み込んで、西島さん曰く「美味しい! これはトラディショナル・スタイル!」な一品。
続いて登場したのは「鳥皮ポンズ」。驚かされるのは、鳥皮を覆い隠すほどのたっぷりキュウリ。まるごと一本を使うというキュウリが、ポンズと相まって口の中をさっぱりさせてくれる。思わずきたろうさんが「こういう酒場にぴったりのおつまみだね。お父さん、料理うまいじゃんよ」と言うと、ご主人が照れた表情を見せる。店は今年で16年目。それまでは仙台をはじめ、都内の料理店で修行を重ねてきた。なぜ立石に店を開いたのか訊ねると「京成の四ツ木駅とか青砥駅とか、一週間かけてよく調べて、“あ、この駅はなんの料理を出す店が多いかな?”と数えたんです。そうしたら立石が一番良かった。立石は昭和の町なんだね。よそは平成の町」と、ご主人。その理由に納得していると、きたろうさんに「昭和の人ですか?」と問うご主人。「そうですよ。俺が平成の人に見えるわけないでしょ!」と大爆笑。このご主人、会話のリズムが独特で、きたろうさんの毒舌も見事に煙に巻く。常連さんがご主人の人柄に惹きつけられるのも良く分かる。
次の一品はニラたっぷりの「ニラ玉」。西島さんは「美味しいですよ。焼酎ハイボールに合う感じ。外カリカリで中の卵がまだフワっとしてますよ」と満足げ。きたろうさんが常連さんに、初めて店に来た時のことを訊くと「まぁまぁでした」と、つれない返事。「すぐ潰れると思ったんじゃない?」と、さらに訊くと「飲んで協力してあげたかった」と言う。また別の常連さんは「最初に来た時、汚い店だなと思って(笑)。でもなんか寄っちゃうんだよね。3杯飲んでも、(ご主人は)“今日は2杯か”っていうんだよ。だから俺は“6杯飲んだ”って払って帰るの」と、いい話が飛び出す。このご主人と常連さんの、少々口悪く言いつつも、実は親戚づきあい以上に親密で思い合う関係が、実に羨ましく居心地がいい。
続いては湯豆腐ならぬ、鳥勝オリジナル料理「温奴」(おんやっこ)。アツアツの豆腐を特製のたれにつけていただく一品で、「とってもシンプルだけど、美味しいな。ほっこりしますね」と西島さん。寒い時期に体を内側から温めてくれる温奴に、きたろうさんは「コレはなんか愛がある」とつぶやく。締めのおつまみは、愛情たっぷり下町のソース焼きそば(350円・税込)。見た目、味ともに記憶を蘇らせる一品で「見た目が美味しそう。これは家庭の焼きそばだよね」「すごく覚えのあるソースの味」と、ふたりの箸が止まらない。
最後に店を続ける秘訣を訊くと「なんでも知ったかぶりはしない。いつでもアホでいる。だから人の話をよく聞く」とご主人。すると、きたろうさんが「俺もそれは心がけてんだ。ものすごく頭がいいんだけど」と返す。さらに“ご主人にとっての酒場とは?”を訊くと「飲む人の憂さを晴らす所かな」と答えるご主人。「憂さを受け止めてあげるんだねぇ。(だから)本当はアホじゃないんだよね?」と、きたろうさんが言うと、この日一番いたずらっぽい表情をしたご主人が「アホじゃないんだな(笑)」と返す。こんなやりとりが、実は最高の“つまみ”なのかもしれない。