オシャレで、大人の落ち着いた酒場が密集する東京都新宿区の神楽坂。この街に創業26年目を迎える酒場「ちょうちん」がある。趣ある扉を押すと、一枚板のカウンターと大将・有本靖さんが出迎えてくれる。席に着いたきたろうさんと西島さんは、早速お隣さんと今宵に乾杯。しみる一杯で喉を潤し、最初の一品を……というところで、大将から大きめのお皿に野菜を盛った、お通しが差し出される。「キャベツと二十日大根は、自家製味噌で召し上がっていただいて。菜の花は香りがありますから、醤油をつけずこのまま……」。鮮度の良い野菜そのものの味を楽しむこの趣向に、「もう、おつまみいらないわ」「(盛り付けが)かわいいですね」と、二人は大喜び。
二品目は、毎日築地市場で仕入れるという刺身盛り。「こちらからネギトロの中にたくあんが入っているとろたく。馬刺しに寒ぶりです」と、大将の説明を聞き、魚と肉が同じ盛りになっていることにびっくり。もっと驚かされたのは、寒ぶりの切り身の大きさ。「寒ぶりはやっぱり大きくないと。半分に割ったら赤身と脂身に別れちゃう。これは一緒に食べてもらわないと」と言われ、きたろうさんと西島さんは一口でパクリ。天然ブリの上品な脂に感動する。
徳島生まれの大将が、東京に憧れ、いつか自分の店を持ちたいと上京したのが18歳の時。スタートは親戚を頼って、浅草の洋食屋から。そこを2年勤めホテルの厨房に。「小さいホテルでしたから、いろんなことをやらせてくれるんです。朝食にランチ、レストランから宴会、全部やらせていただいて。でも厳しかったです。本当に半年間はフライパンが飛んできたりとか……」と笑う。神楽坂に店を出したのは30歳の時。「当時、神楽坂ってそんなにブームじゃなかったですよ」と振り返る。それから神楽坂一帯はオシャレなエリアへと変貌し、その地の勢いと、確かな包丁の腕で店は繁盛していった。
次の一品は、最初の修業先、浅草の洋食屋さんで覚えた「ビーフシチュー」。この一皿がまた圧巻。「こんなに肉の多いビーフシチューは、あんまりないよ」「お肉がこんなに柔らかいの! このほろほろ感たまらない」と、二人はまたまた感動。前スネ肉をじっくり8時間以上煮込み、肉の繊維が口の中で崩れていくこの食感! そこで大将が「このシチューを、ちょっとご飯をかけて」と、おでんの出汁で炊いたご飯「茶飯」を出してくれる。この気の利いた一杯に、「これはちょっといけない。止まらない! 美味しいよぉ!」と、西島さんは大喜び。
続いては酒場の定番メニューをアレンジした「木の子たっぷり揚げ出し豆腐」。「揚げたてで、熱いですから気をつけてください」と、大皿に盛られたそれは、木の子たっぷりのあんかけで、大根おろしが味のアクセントになっている。「やっぱり、お豆腐は美味いね」と、しみじみするきたろうさん。そして最後の一品は、看板料理の「おでん」。きたろうさんは、はんぺんと大根を。西島さんは、店自慢の牛すじとつみれをいただくことに。かつお節をベースに、煮干しや鶏ガラをブレンドした、絶品の出汁が染み込んだタネ。中でも、見た目からして美味しそうなのが牛すじ。串に刺された牛すじの大きさはもちろん、その食感、食べ応えは一級品だ。
散々食べて飲んで、ご機嫌になったきたろうさん。「雑多に、いろんな方が集まって、賑わう場所こそが酒場」という大将の言葉に、「そうだよね。ネットで喋ってるようじゃね、人間の深みがドンドン減っていくよ。この酒場の無駄な感じがいいんですよ」と、いい事を言う。そこで西島さんがすかさず「きたろうさん、その言葉、明日絶対覚えてないでしょう?」と突っ込むと「もちろんだよ、この無駄な感じがいいんだよ」と大爆笑。それでこそ、酒場。無駄こそが愛おしい。