昭和の雰囲気を色濃く残す、砂町銀座商店街。その小路を入ったところにある酒場「大船」の暖簾をくぐると、拍手喝采で迎えられた。「すごい、すごい!」「常連さんで賑わってるね。お客さんに愛されてるね、お母さん」と、西島さんもきたろうさんも、その大歓迎に大感激。焼酎ハイボールの乾杯も、まんぱいの店をあげての大合唱。お店を切り盛りするのは、お客さんに“お母ちゃん”と呼び親しまれている飯田孝子さん。酒場の女将といえば豪快な人柄をイメージしてしまうが、こちらの“お母ちゃん”は、いつもニコニコ笑顔を絶やさない、小さくてかわいい女将さんだ。
最初のオススメは「今日ね、いい生がきが入ってるんです」と、三重県鳥羽産の巨大な岩がきが登場。今が旬の岩がきだが、こんなに立派なものは西島さんも初体験。「こんなに口の中が、かきでいっぱいになったことないですよ! 磯の香りが強いですね。すごい。いきなりびっくりしちゃった」と興奮気味。褒められて恐縮するお母ちゃんに「シャイな感じでいいね。相当シャイだね」とは、きたろうさん。
次はお店のメイン料理、もつ焼きから「白」と「かしら」をいただくことに。「タレにニンニクをつけると美味しいですから。ちょっとつけておきますね」というお母ちゃんのアドバイスに従い、ニンニクを溶いて頬張る2人。「うん、そんなに強烈なニンニクじゃ……、……あぁ、すごい強烈なニンニクだ!」、「これぐらいガツンと来た方が、焼酎ハイボールには合う気がする」と、きたろうさんと西島さん。タレは亡くなったご主人とお母ちゃんで作り上げたもの。また、お店の人気メニュー「鰻倶利伽羅焼(1本400円・税込)」の味もまた、二人で完成させた一品だ。鰻の身の切れ端を、串に綺麗に巻きつけた倶利伽羅焼き(くりからやき)は、今ではなかなかお目にかかれない。そんな一串を、下町商店街の酒場で頬張る。酒呑みには、たまらないひと時だろう。
お母ちゃんがご主人と店を始めたのは51年前。サラリーマンだったご主人が、一念発起して、もつ焼きをメインにした酒場を開業するが、58歳の若さで他界。以来、息子の賢一さんと共に暖簾を守ってきた。「続けられたのは、お客さんのおかげ」とお母ちゃんは言うが、もつ焼きの串の刺し方ひとつから苦労の連続だった。「もつを刺すのは、お父さんの担当だから、私は知らなかったんです。お父さんが入院する前に、もつを刺している写真があったものですから、それを見ながら覚えました」。偶然撮った一枚の写真が、夫婦で築き上げた店の暖簾を守ったのだ。息子に、その奥さん。さらに最近では孫娘までが店を手伝い、毎夜お客さんを暖かく迎え入れている。
最後の一品は、人気メニュー「もやし炒め」。卵入りのシンプル極まりない一品だが、ボリュームたっぷりでお酒に合う。それでいてこの店で食べると、何か一味違っているような……、そんな名物料理だ。「歯ごたえがいい」「味付けも良い塩梅で、やみつきになりますね。止まらなくなっちゃう」と二人。このもやし炒めをはじめ、メニューはどれも財布に優しいお値段で、常連さんから「値上げしなよ」の声もしばしば。それもこれも、この店が長く続いて欲しいという思いからだ。そんな店思いのお客さんに対し、お母ちゃんもまた、ひとつのことを頑なに守っている。「営業時間は守りたい。お客さんがみえない日でも、もし来てくださったら悪いから。今日は暇だから早く閉めるっていうのは、したくない。馬鹿正直なんです」。店思いと客思い。決して話し上手ではないお母ちゃんだけど、人と話すのは大好きで、お客さんが多い時も少ない時も、変わらずニコニコしながら見守っている。そんなお母ちゃんがいる限り、その笑顔会いたさに暖簾をくぐる人は、途絶えないはずだ。