放送150回目を記念して、きたろうさんと西島さんがやって来たのは九州・博多。2週にわたっておおくりする博多スペシャルの第1弾は、西鉄福岡駅から1駅、薬院にある酒場「旬菜旬魚 あんどう」を紹介。バーのような重厚な扉を開けると、ご主人の安藤太さんと女将の眞砂子さんがお出迎え。常連さんと焼酎ハイボールで乾杯を交わし、早速、九州のうまいものをいただくことに。「じゃあ、お刺身を」というご主人に、思わず「食べたい!」と、声をあげる西島さん。うまいと評判の博多の近海物だが、この店の刺身盛りはさらに珍しいものが並ぶ。穴子にクジラのさえずり、サバの白子と東京では、まずお目にかからないものまで並び、さらにボリューム満点。きたろうさんが「アナゴってこんなに肌が白いんですね」と驚けば、「西島さんと一緒ですよ。コリコリでしょ」と、持ち上げるご主人。「このサバの甘味すごいですね」「クジラの香りが、ふわっときますね」と2人の箸と、会話が止まらない。仕込みから何から、全部1人でこなすというご主人。その盛り付けも上品で、モダンなセンスが光る。「センスなんて鍛えてもダメだもんね」と、きたろうさんが褒めると「うちには団扇(うちわ)がないんですよ、扇子(センス)はあるけど」と、ダジャレのセンスは……。
小学生の時に父親を亡くしたご主人は、母を助けるために15歳で料理の道へ。「周りの友達は高校に行ってるわけですよ。そんな奴に負けたくないという、その気持ちだけ」。厳しい修行に耐え、22歳という若さで割烹料理店の板長を任されるまでになり、箱根や湯河原の旅館でも腕を振るった。そして56歳の時、母の待つ福岡に戻り、店を開業。4年前に亡くなった母は、店に来ては嬉しそうな表情を浮かべていたという。「まぁ多少は親孝行かなと思います」と、ご主人は照れるが、これ以上の親孝行はないはずだ。
次の料理は店の人気No.1「大根蒸しギョーザ」。こちらはギョーザの皮の代わりに、大根の薄切りを使った創作料理。「オシャレだなぁ」と、きたろうさんが褒めるように、こちらもご主人のセンスがキラリと光る。西島さんは「こんなの初めてみました。これ、大根だからこそのしっとり感とか、シャキッと感があって。肉汁を受け止めてくれる大根が……、これはたまりません」と、味に太鼓判。
さらに続いて出て来たのは「子持ちししゃも明太焼」。これまた、きたろうさんが「見るからにししゃも明太」と唸るほど色鮮やかな一品で、ししゃもが赤い明太ペーストと白い特製マヨネーズをまとい、頭と尻尾を出している。「お酒が進みますよ」というご主人の言葉どおり、明太子の醤油に漬け込まれたししゃもの身、そのものに辛味がしっかりついている。西島さんは「これ、博多の新名物にしたい」というほど、お気に入りの様子だ。
常連さんによれば、ご主人の一言で、奥さんがパパッと動いて客の注文をさばく様子が、いわゆる九州の夫婦を感じさせるという。きたろうさんが「どちらが最初に声をかけたの?」と訊くと、ご主人が奥さんを指差す。一斉に「おかしいよね」「偉そうだよね」と声が上がると「男はそう言わないと、いけないの」とご主人。若くして板長にまでなり、今も髪をオールバックでキメたご主人は、強面に見えて、実はそうでもないらしい。女将に「お店やる時“大丈夫、オッケー”という感じだったんですか?」と訊くと、「やると自分で決めて来て、ここにしたからって言われたから。大丈夫とか大丈夫じゃないとか、そんなの考えることがなかったです。なるようにしかならないと思ったから、これはしょうがないわと思って」と、実にサバサバとしている。そんな女将の生き方に、西島さんが感激して、思わず涙がほろり。
最後の一品は「納豆と魚のユッケ」。魚と納豆の旨味を、ごま油と醤油のタレ、卵黄が引き出し、思わず温かいご飯でかき込みたくなる一品だ。そのユッケを海苔で包んで頬張ると、まさに九州の海の豊かさを感じられるという寸法。博多という故郷を、そして家族を愛する凄腕料理人だからこそ、成し得る料理の数々に、旅の醍醐味を満喫したきたろうさんと西島さん。博多の酒場の第一夜は、まずは大満足で次なる期待に胸が膨らむ。