ターミナル駅として発展目覚ましい東京足立区北千住。目指す酒場は「室蘭焼鳥 くに宏」。お店を切り盛りする若き店長、中島太志さんへの挨拶もほどほどに、まずは焼酎ハイボールで乾杯! 「室蘭焼き鳥ってなんですか?」と訊くと、「普通焼き鳥といったら鶏肉ですけど、豚がメインになっています。タレが濃いめで、洋ガラシをつけながら食べるんです」と店長。北海道出身かと思いきや、生まれも育ちも北千住という店長が、早速、室蘭焼き鳥の定番串「豚精」を焼いてくれることに。北海道出身の西島さんによれば、札幌でも焼き鳥屋で豚精を食べるという。そもそも、室蘭焼き鳥が豚を使うようになったのは、戦時下に軍靴を作るために、養豚が奨励されたことに由来すると言われている。「このトロトロのタレ、濃いそうですね。うん、美味しい! この甘辛のタレが北海道だな」と、豚精を食べ慣れた西島さんも納得。「わざと大きめに(豚肉の)ポーションを切っているんです。ペラペラにしちゃうと、美味しさが出ないので。タレが強いので、ジューシーさを残さないといけないんです」と店長。知り合いから、関東では珍しい室蘭焼き鳥を始めたいと話を持ちかけられ、現地で1年修行して、浦安の支店を4年ほど任されたのち、理解あるオーナーとの出会いもあり、平成24年に今の店をオープンさせた。店長は出会いに恵まれる星の元に生まれたようだ。
次に出てきたのは「うずら」と「ナン骨」。ここで一行を驚かせたのがカラ付きのうずら。「室蘭焼き鳥の店はだいたい、カラ付きで出しているんですよ。そのまま召し上がってください」という店長に従い、食べてみると「卵だけより全然うまいよ。これは驚き!」、「シャクシャクしてる。歯で噛み切った時の感じがブリンブリン」と、2人とも大絶賛。肉が残るナン骨は、軟骨の中でも「のど笛」という部位で、豚1頭から串4、5本しか取れないという。コリコリという歯ごたえはもちろん、噛めば噛むほど味がギュっと出てくるのが楽しい。
店長の中島さんは高校卒業後、飲食業界へ進み23歳の時に本格的に料理を学びたいと、なんとドイツに渡り日本料理店に就職したという。「地元の先輩から“ちょっとドイツに行かねーか?”みたいな話で、本気で行くと思わなかったので、“ドイツでもどこでも行きますよ”なんて言っていたら話が進んで。ドイツのザールブリュッケンという、自転車で5分ぐらい行くとフランスの国境という南の街です。今なら不安ですけど、若気の至りで、料理も言葉も満足にできず、大変な目にあったんですけど(笑)。ドイツの親方がすごく仕事のできる人で、今こうして料理で食べられているのは、その人のおかげです。料理の基本的なことも、人間的なことも親方からいろいろ教わりました」と、店長。
次の一品は「煮込み」。「肉が柔らかい。さっぱりしていますけど、だしの味はしっかりですね」と、西島さんが言うと「豚精のタレが重いので、一緒に食べた場合にあっさりしている方がいいと思いまして」と店長。そして最後の一品は、地養鳥を使った親子丼が登場。「やったぁ! 親子丼ですって。美味しそうなトロトロタイプです」と、喜ぶ西島さん。きたろうさんも「親子丼は見た目が大事だね。なんでこんなにご飯と合うんだろう」と、トロトロの卵とじとご飯をかきこむ。
学生時代から酒場でアルバイトを始め、飲食業に入った店長だが、母親が店をやっている影響もあると言う。しかも今の店から5、6軒しか離れていないところで今も営業中だ。しかし「僕もずっと料理をやっていますけど、家を手伝ったことは一回もないんです」という。母親のサチ子さんは言う「まぁ子供の頃から生意気だったね。その代わりなんでもよく出来た子ですよ。修行しても、先輩やみんなに好かれて良い結果を出す得な性格。だから心配はしない」と、実にサバサバとした親子関係のようだ。室蘭焼き鳥以外で、うちでしか食べられないものを作りたいと意気込む店長。優しそうな見た目と裏腹に、意外に頑固で真面目な店長は、きっと室蘭焼き鳥に続く名物料理を生み出すに違いない。