今回の酒場「食堂とだか」は、東京都品川区の酒場激戦地、五反田の商業ビルの地下にある。小さな看板がひしめき合う様子に「ちょっと昭和の香りがする」と、西島さんが期待に胸を膨らます。カウンター8席の小さな店に入ると、ご主人の戸燉Y平さんと、奥さんの彩さんが笑顔で迎えてくれる。狭くとも店の隅々にまで夫妻のこだわりを感じるおしゃれな空間で、これなら女性1人でも入りやすそう。「じゃあ、焼酎ハイボールをふたつ」とお願いすると、出て来たレモンサワーの色の濃さにびっくり。「種も皮もレモン丸ごと擦りおろしているんです」という。乾杯もそこそこに飲んでみると、国産レモンの濃厚な味と一緒に、ちゃんと焼酎の味がする。「美味しい!」「これは飲んじゃうね」と、きたろうさんも西島さんもゴクゴクと喉を鳴らす!
最初の一品は「お通しを5つの中から選んでいただきます」と、黒板を指差すご主人。きたろうさんは「選べるのが嬉しいねぇ」と「なすの煮びたし」を選び、西島さんは「ゴーヤと梅のピクルス」をお願いして、「ゴーヤの苦味がマイルドになって美味しい」と満足げ。続いてオススメをお願いすると、聞きなれぬ言葉が! 「ウニ・オン・ザ・煮卵」。崩れやすいので手で食べてくださいと出されたその一品は、名前通り煮卵の上にウニが乗っている。「たくさんウニを食べているような、贅沢な気分になるね」、「これ一個で終わり? もっと食べたくなっちゃう」と、二人は大絶賛。
続いての料理「さんまと茄子の包み焼き」は、茄子をさんまで巻いて焼くという秋の味覚をふんだんに使ったもの。上に掛かった黄色い物に目にとめた西島さん。「これはなんですか?」と訊くと、「栗なんです。蒸した栗を擦りかけています」とご主人。味はもちろん、一本筋の通った素材使い、そして見た目にも美しい料理が、この店の信条らしい。
食堂とだかは、開店して2年足らず。それまでご主人は、地元の鹿児島で修行を積み、31歳で五反田にお店を開業した。「どうせ独立するなら東京だと思って。でも東京を知らないし、友達もいない。お金もなかったので自分で壁紙を貼ったり」と、手作りで店を改装したという。そんなご主人を支えた奥さんとの出会いは、鹿児島での陶芸教室。奥さんが先生で、ご主人が生徒だったが、交際3年の後に結婚。実は店の皿や器は、すべて奥さんの作品で、ご主人の料理とのコラボレーションが、お店を軌道に乗せるうえで大きな役割を果たしたという。「女性のお客さんは、みんな写真を撮るじゃないですか。うちの料理は、写真映えがいいので」と聞いて、西島さんが「確かに、これは写真を撮りたくなりますよ!」と納得。若い常連さんも、店を知ったきっかけはネットで、「写真を撮ってシェアすると“みんな行きたい”って言うんですよ」と評判がいいという。
次のオススメは「胡麻豆腐とトマトの揚げ出し」。ご主人がおでんからヒントを得て“ここでしか食べられないものを”と、生み出した料理だ。トマトの赤がアクセントになった見た目の良さ、そして丁寧に取られた出汁の味。そのバランスの良さに「なんか、京都にいるみたい。ご主人は研究家だね」と、きたろうさんが褒める。最後の〆は「牛ご飯」。これが牛丼だったり、すき焼き丼だと普通だが、この「うしごはん」という言葉の響きがたまらない。これを目当てに来る人が多いという「牛ご飯」は、アツアツのご飯と半熟煮卵の上に、甘辛の醤油ダレでレアに焼いたA4ランクの国産和牛を乗せたもの。西島さんが一目見て「めちゃくちゃフォトジェニックじゃないですか!」と言うほどに、食欲をそそる。この味にして、このルックス。ネットで拡散するのも納得だ。最後にご主人の夢を訊くと「お店を広げようとは思いません。でも長く続けたいと思います」とのこと。奥さんとの二人三脚は、ご主人の料理と奥さんの器のように、常にベストな関係性を築きながら、新たな常連さんを呼び込みつつ、小さな酒場の灯りを守り続けるだろう。