学生や演劇人が多く、“安くてうまいのが当たり前”という酒場激戦区、東京都杉並区阿佐ヶ谷。その駅の北口、小さな飲み屋が軒を連ねるスターロード商店街の「しんの輔」が今宵の目的地。創業9年目のまだ若い店だが、戸田信之輔さんと耕平さんの兄弟が作る絶品料理で店はいつも大盛況。お店に入って、まずは焼酎ハイボールで乾杯。「ここに来て、まずおすすめって言ったら何ですか?」と西島さんが訊くと、「やっぱ串揚げですね」と信之輔さん。約40種類も揃う串揚げの中から、きたろうさんはタマネギとしいたけ、さらにハムチーズを注文。西島さんはおすすめの紅生姜、アスパラの豚まき、カマンベールチーズをチョイス。さっぱり系と甘めのソースをブレンドした、中濃に近いソースは素材を選ばないオールラウンドタイプで、大阪風に串を漬けるのではなく、上から掛けていただくスタイルだ。きたろうさんはハムチーズを頬張り「あー、いいねぇ。この懐かしい感じがうまいなぁ」と、えびす顔に。見た目にインパクトが強いのは、アスパラガスをまるごと一本使った「アスパラの肉まき」。また大阪では薄切りを揚げるが、鳥のひき肉に刻んだ紅生姜と卵を混ぜ、つくねにしていただく「紅生姜」はこの店のオリジナル。「おー、美味しい。紅生姜のパンチが効いてますね。食べやすいし」と、西島さん。それでいて2人で6本たっぷり食べて885円。これは嬉しい。
次は店の定番料理「ちくわ天てんこ盛り」。その名の通り、カラリと揚げたちくわ天が器にてんこ盛り。その揚げ具合も絶妙だが、「これ、マヨネーズが強烈だね」と、きたろうさん。これまたたっぷり食べて380円! 定番料理というのも納得だ。
兄の信之輔さんは、高校卒業後さまざまな職を転々とした後、26歳で渋谷の居酒屋に就職。10年かけて開店資金を貯め、阿佐ヶ谷に念願の店を開業した。「ここで店を出すことが決まって、一人のお客さんが多いので、串モンがいいなと。でも焼き鳥屋さんはいっぱいあるので、あまり(業種が)かぶらない串揚げにしたんです」。そんな信之輔さんが、開業にあたり助けを求めたのが、9歳離れた弟の耕平さんだった。それまで塗装業をしていたので、飲食業は全くの門外漢。しかし、元来の生真面目さで兄の元で一から学び、今では仕込みから調理まで、そのほとんどを任されるまでになったという。
そんな耕平さんの自慢の一品が「鳥そぼろモヤシ(380円・税別)」。鳥のひき肉に醤油、みりん、砂糖で甘めに味付けしたそぼろと、シャキシャキのモヤシは好相性。その味に納得しつつ「モヤシとか、ちくわとか、この店の料理は原材料が安いねぇ」と、きたろうさんが笑う。しかし、安い素材を美味しく仕上げるのも料理人の才覚。実に見事だ。
最後の一品は、オリジナルのご飯もの「カルボ丼」。「ご飯の上にカルボナーラソースが掛かってます」という説明では、うまく想像できないが、出てきてみるとこれがまた実に食欲をそそる見た目。ソースたっぷりでフライドオニオンと温玉がのっており、これを崩しながら食べると完璧なリゾット! 西島さんは一口食べて大きく頷き「なるほどなぁですね、これは!」と感心。きたろうさんは「味付けの塩梅が、ものすごくいいよ」と、メニューを考案した信之輔さんを褒める。
大雑把な性格の兄と、几帳面な性格の弟。性格は兄弟で正反対だが、この2人の組み合わせがあって、今の繁盛がある。この店だけでなく、2軒、3軒と商売を広げたいという信之輔さんと、兄のように自分の店を持ちたいという耕平さん。夢や目標は異なっていても、お客さんを安くて美味しい料理とお酒でもてなすという心意気だけは、兄弟でピタリと揃っているようだ。