東京下町、台東区の入谷の一角にある“イマドキ”の酒場「暮ラシノ呑処 オオイリヤ」。おしゃれなカフェ風の店に入ると、ご主人の常山鯉一さんと、妻の由美子さんが出迎えてくれる。焼酎ハイボールをお願いすると、店のおしゃれ具合に反して、グラスになみなみで登場。喜ぶ酒呑みのきたろうさんと西島さんは、常連さんとご機嫌な乾杯を交わし、最初のオススメをいただくことに。「名物の鳥の皮とハツの煮込みです。カツオの出汁とニンニクを利かせて、ちょっとさっぱりめに」と、ご主人。熱々の煮込みを頬張り、「あっさりしてるけど、この鶏皮のコクが染みてますね」と西島さん。「お店を始める時、煮込みの美味しい店にしたいと思って。それも牛や豚のモツ、味噌煮込みではない、あまり他にない煮込みにしたくて。継ぎ足し継ぎ足し作っているので、すごく煮込まれた皮と、入れたばかりの皮で、また食感が違うんです」。これがまた焼酎ハイボールによく合うと、喜ぶ2人。続けて次の料理をお願いすることに。
「僕は沖縄の山原(やんばる)という所の出身なんですけど、そこの若鶏を使った蒸籠蒸しです」と、出てきた蒸篭の蓋を開けると湯気に包まれて、はち切れんばかりの鶏むね肉が! 「見るからにブリンブリンじゃないですか!」と西島さんが喜ぶと、由美子さんが2種のソースを説明してくれる。「ひとつが山椒、コリアンダー、八角の入った胡麻ラー油ソース。それとニンニク酢ソース」。地鶏の肉質はもちろん、スパイシーかつ香りの強い胡麻ラー油や、あっさり系のニンニク酢との相性も素晴らしい。
店を始めてまだ2年。もともとご主人は沖縄から上京し、アパレル関係で働いていたと言う。「まだ若かったんで、おしゃれなところで働きたいと思って」と、ミーハーな気持ちでカフェで働き始めたのをきっかけに飲食業へ転身。いつしか自分で店を持ちたいと思うようになった。由美子さんも「私もそれに乗っかろうと思って(笑)」と、OLを辞めて飲食店でのアルバイトを始め、様々な飲食店で働いたという。結婚して4年後に、ここ入谷に念願の店をオープン。“大丈夫だ!”という自信と、“大丈夫か?”という不安に包まれてのオープンだったが、思わぬ追い風が吹いた。「壁に英語がいっぱい書いてあるね?」と、きたろうさんが訊くと、「近くにゲストハウスがありまして、外国のお客さんが多いんですよ」とご主人。下町に泊まるのがヨーロッパからの旅行客の間で流行っているようで、ゲストハウスの紹介で外国人客が毎夜訪れるのだという。そして日本の酒場を楽しみ、“素敵な体験だったわ!”などと壁にサインしていくという。
次の料理は島野菜のグリル。沖縄の野菜をメインに鎌倉の野菜を加えた、色とりどりの鮮やかな一皿。「マグロの酒盗ソースを絡めてあります。しっかり炒めたネギ、それからニンニクとマグロの酒盗で作ったソースです」と言うご主人。「すごい、つまみになっている。塩味がしっかりしてるからですね」、「これは女性に人気があるだろうな」と、2人の箸は止まらない。
最後は「もずくのボロボロジューシー」という沖縄の料理。“ボロボロ”という言葉に頭を傾げていると「もずくとお出汁と塩の、ちょっと優しい感じの雑炊みたいなものなんです」とご主人。丸しいたけと少量の米に、水を足してふやかすところから作り始める、手間のかかった一品だが、お腹に優しい味付けが〆にぴったり。お腹もちょうどいい感じに膨らんだところで、なぜ店を沖縄料理店にしなかったかを訊くと「僕が酒場をやりたいと思ったのは、いろんな料理ができるから」とご主人。ルーツを感じさせつつ、自由に料理を出したいというご主人に、「要は、おしゃれにやりたいんだよ」と、意地悪なきたろうさん。これにはご主人も由美子さんも大笑い。縄のれんにいつものつまみもいいけれど、たまにはしゃれた店で、気構えずざっくばらんに飲みたい。それなら、こんな下町飲みもいいかもしれない。