東京23区を飛び出して、2回にわたってお届けする町田編。自分のホームタウンだと意気上がるきたろうさんと、西島さんが向かったのは明治17年創業の老舗「柿島屋・別館」。かつては八王子と横浜を結ぶ中継地点として、ここ町田で馬喰(馬や牛の売買・仲介をする商人)を営んでいたといい、その商いの流れから馬肉料理を食べさせる店として、今も続く有名な一軒だ。店は大きなビルで、1階は団体もOKな馬肉専門店「柿島屋・本館」、2階がゆったりと仲間うちで呑める「柿島屋・別館」となっている。
店を切り盛りするのは女将の柿島妙子さん。ご主人の春樹さんは、兄と本館で働いている。焼酎ハイボールで常連さんと乾杯し、オススメをお願いすると「是非“お刺身”と“たてがみ”を召し上がっていただきたいんです。今日は、主人がいいところを用意しておりますので」と女将。「うちは丸々一頭使っていますので、いろんなところがつかえるんです」と、ご主人が出してくれたツヤツヤの「馬刺し」。「でも、一回冷凍しているんでしょ?」と、きたろうさんが言うと、ご主人は「うちは冷凍を使いません」とキッパリ。「うまい! これは本当の馬刺し」、「なんですかこの柔らかさ。しっとりしたこの感じ、美味しい!」とびっくり。続けての「たてがみ」に、「目がさめるくらい濃いです。チーズぐらいの濃厚さがある」と西島さん。冷凍しない本来の馬肉の美味しさに、二人とも圧倒されたようだ。
次に出てきたのは「馬肉のスジ煮込み」。「うわぁ、箸で持っただけで柔らかい」という西島さんが、そっと口に運ぶと「スッキリしているというか、あっさりしてる」。見た目にはこってりしているが、冷めても固まらないという馬の良質な脂と、余分なものは一切入れない女将の味付けであっさりといただける。
女将が柿島屋と縁が出来たきっかけは、高校生の時にしたアルバイトだった。「その時に(ご主人に)惚れちゃったの?」と、きたろうさんが言うと「いや、惚れてない」とピシャリ。早くに亡くなった先代・亀蔵さんからの、たっての願いだったという。女将が二十歳をすぎ、改めて先代の女将から請われて結婚。「すっごくかわいがられました。厳しいんだけど、愛がある厳しさだから、納得できるのよね。(先代の女将は)怪我しても病気をしても自力で治しちゃうような人で」。この先代の女将・晴子さんが実に立派な人で、ご主人曰く「“従業員の人が働いてくれるから、学校に行けるんだよ”って、働いている人が先にご飯を食べて、家族なんて後の方でした」。そして何よりお客さんに愛された。「おばあちゃんが店を大きくしたんだもんね。いいおばあちゃんで、俺なんか本当に可愛がってもらった」と、当時を懐かしむ常連さんも多い。
次の一品は「馬肉の肉団子」。とろーり甘酢がかかり、いい香りの湯気が立ち上る肉団子に「ほっかほか!」と、テンションが上がる西島さん。口の中でまさしく“ほどける”食感に肉の旨味、そして甘みのあるタレ。キリッと冷えた焼酎ハイボールとの相性も抜群だ。その勢いのまま〆の料理「桜肉鍋」に突入。一人前の鍋だが赤身・脂・バラ肉がセットになっていて、ボリュームも十分。「まず脂身を入れていただいて、煮立ったら赤身を入れて、もっと煮込んで召し上がってください」とご主人。卵に肉を通していただくと「わぁ、甘〜い」「うまいねぇ〜」と声が上がる。たっぷり堪能したところで自家製そばを投入。創業以来のこだわりのそばは、まるで食感が違う。「この(桜肉鍋の)汁に一番合うそばですね。普通のそばだと負けちゃいますもんね。旨味と甘味が強い汁には、ここまでコシがないと」と、体中が温まるのを感じながら、西島さんは大満足。
女将とご主人に、それぞれお互いのことを訊くと「まぁ〜、マイペースで自分勝手な方。自由人。毎晩飲んで遊んでいましたから」と女将。逆にご主人は「文句のつけようがないですよ。心の中では“(女将に)悪い”と思ってんですけどね。どうも治らないですね」と笑う。老舗ののれんを守るというのは、簡単なことではない。しかしお互いを理解し合い、許しあえる夫婦であればこそ、そんな大変なことも、なんとかなってしまうのかもしれない。