東京都町田市をめぐる2軒目。訪れたのは創業22年目を迎えた焼鳥「おんどり」。焼き台の前で腕をふるうのは、小谷野亮さん。店の中が見える呑み屋らしい引き戸を褒めつつ、焼酎ハイボールをお願いし、たくさんの若い常連さんと乾杯。早速オススメの焼鳥をいただくことに。「じゃあ、ウチに来たお客さんが、必ずと言っていいほど注文する“白レバ”を、たれ焼きでお出しします」と大将。その人気の秘密はひと目で分かる。「おっきいですね! すっごくボリューミー」と西島さん。続いてきたろうさんが「うわぁ、これレアみたいに柔らかい!」。刺身で食べられる新鮮なレバを軽く、しかし臭みを出さないように、絶妙な火加減で焼き上げる。レバは苦手だが、この店で初めて食べられるようになった女性も多いという。「このレバをうまく焼けるようになるまで、どれくらいかかるの?」と、きたろうさんが訊くと「3年くらいで、なんとなくは焼けるんですけど、おいしく焼くには5年10年かかると思います」と言う。
1本目のレベルの高さに満足げなきたろうさんが「次を焼いてよ」と大将に催促。「次は皮を塩で」という大将に、「タレとか塩の注文は受けないんだ」ときたろうさん。大将は後進の育成にも熱心だ。焼き台を任されたのは、店長の渡部美稲さん。店に入って15年、焼き場に立って10年。しかし「まだまだ勉強中なんで」と、その姿勢は謙虚。彼女が焼いてくれた皮は、パリッとした焼き目から、中の脂がじゅくじゅくと吹き出す、見た目にもそそる焼き上がり。「店長、塩加減バッチリ!」と西島さん。「塩もいろいろ使ってみて、一時は沖縄の塩とか藻塩とか試したんですけど、今は赤穂の塩を使ってます。鶏は大山鶏と言いまして、鳥取の鶏です。地鶏は硬くて、食べ歩いたんですけど焼き鳥には大山鶏が合う」と、こだわりを語る大将。料理の話になると嬉しそうに話が止まらない大将に、料理に対する情熱を感じる。
高校を出てからずっと焼鳥に掛けてきた大将。「神奈川の秦野市というところで、母親が焼鳥屋をやっていて、子供の頃から手伝っていました」と言う大将。「それから二つ年上の兄がいるんです。その兄も埼玉で焼鳥屋を3軒やっていて……、焼鳥家族なんです。変わったところでは、うちの叔父さんが、焼鳥学校の校長先生やってます(笑)」。まさに焼鳥一族! 「兄弟でもタレの具合とか違うの?」と訊くと、「違いますね。兄貴は兄貴の美味しさなんですよね。悔しいけど美味しいんですよ。で、ちょっとパクってみたりとか(笑)」。
次のオススメは、これを目当てに来る人も多いという「ダチョウ刺し」。「宮崎から空輸した朝〆の新鮮なダチョウ刺しです」。見た目には見事な赤身で「あのダチョウを想像しないほうがいいね。いや〜、うまいなぁ、あんな大造りの鳥とは思えない」、「しっかり噛み応えがあって、味はさっぱりしているけど肉の味がする」と、その味を堪能。
続いての締めの料理は「水炊き」。8時間かけてガラから煮出したスープは、見事な黄金色。「まずスープを飲んでいただいて、そのあとに肉から召し上がって頂きます。さらにスープに肉のエキスが出たところで、今度は野菜を入れるという順番です」と、その説明を聞くだけで美味しそう。スープを飲んで「もう全部飲み尽くしそう」という西島さん。続いての肉には「うわ〜、柔らかくてプリプリ」、「確かにこの肉を食べた後で、野菜が食べたくなるね」と、二人の箸は止まらない。
店を続けてこられたのは、仲間と出会い成長させてもらったからだという大将。かつて相模原に出した店を7年で手放した時、スタッフがまとめて何人も辞めてしまい、大変な苦労をしたという。「調子に乗っていました。そこで苦労したことも、今では感謝しています。すごく反省して、今はみんなとコミュニケーションをとって、食事に行ったり、飲みに行ったりしています」。常連客やスタッフの励ましに支えられ、謙虚さを忘れずに精進する。その姿勢が今宵も大将の店が繁盛させている。