今回訪れたのは、東京・阿佐ヶ谷でまもなく1周年迎える「ミートミートミート」。ご主人の谷岡一久さんと、妻の恭子さんが営むカウンター16席のお店で、趣向を凝らした肉料理が評判の店だ。まずは常連さんと恒例の焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。「ミートミートミートってお肉のことだよね。ここに出会いという意味も含まれているの?」と訊くと「3つ目のミートは、スペルが出会う方のMeetなんですよ」とご主人。そんな会話を交わしてから、一番人気の肉料理「ローストビーフ」をいただくことに。「ホースラディッシュのソースがかかっているのが赤身のローストビーフ、塩と胡椒で味付けしているのが霜降りのローストビーフです」と説明を聞き、霜降りを食べた西島さん。「霜降りのいいところが、全部ギュって入ってる」と目がまん丸に。「部位で味が全然違う、うまい」と、きたろうさん。「ソースも自家製で、お肉は地元の仙台から仕入れています。同級生が仙台で業者をやっているので」という。
続いては「鶏の唐辛子炒め」。「ちょっと辛いのは大丈夫ですか?」と訊かれ「ちょっとだけですよね?」と不安げなきたろうさん。しかし出て来たお皿には真っ赤な唐辛子がいっぱい! 「ものすごく辛いだろう、この見た目」と、おっかなびっくり食べてみると「全然辛くないじゃん……、あ、でも辛い」、「だいぶパンチがありますね。スパイシーないい香りがする」と二人。唐辛子や香辛料の香りが、鶏肉に移っていて、見た目ほど辛くない。何より体が温まり、焼酎ハイボールがすすむ、すすむ。
ご夫婦が上京したのは6年前。それまでタイやインドネシアなどアジア料理の店で修行し、いつか仙台で店を持とうと準備していた時に東日本大震災が来た。「市街地だったので津波被害はなかったんですけど、古い日本家屋に住んでいたので、壁が全部落ちて住めなくなって」。それで東京に出て来て、最初に住んだのが阿佐ヶ谷だった。「独立しようとした時に、声をかけていただいた方が阿佐ヶ谷の人でした。僕らも再出発っていう意味で阿佐ヶ谷に店を出すのがいいと思い、今年の3月11日、震災の日にオープン日を合わせました。忘れないようにって」。
3品目はご主人が手間暇をかけて仕込んだ「モホローストポークグリル」。「豚肉を柑橘や香草に漬け込んで、ゆっくり火を入れてローストしています。脂身が美味しいですよ」という自慢の一皿だ。豚肉の分厚さも驚きだが、皿の彩りも見事。柑橘系の香りと味のアクセントに「なんかもう、ビーチで遊んでる豚だね」と、きたろうさん。「香りとちょっとした甘み。それにやわらか〜い! 美味しい!」と、西島さんも大絶賛。常連さんから“ミートさん”と呼ばれるほど、肉に精通しているご主人。「仕込みが趣味です」というくらいで、手間がかかっても苦にならないという。「食べるのも、作るのも好きです。ただジューッと焼くのもあれば、低温で火を通すものもある。加熱の仕方もいろいろで、発見があって面白いですね。自分が得て来たものの中から、少しずつ研究して、あまり常識にとらわれないようにメニューを作っています」と、ご主人は語る。
最後は肉料理の花形、ステーキ。「うちでは焼き加減とか聞かず、その時の肉の種類で決めさせていただいています」という。ご主人が責任を持って最良の焼き具合で出す、というのがこの店の流儀。鋳物の鉄のフライパンに乗って出て来たメキシカンステーキには、トマトとサルサソース、ワカモレソースが彩りよく掛けられている。本格的なステーキだが、きたろうさんは「微妙に、ちゃんとつまみになってるんだよね」と褒める。
これからの夢を訊くと「お店を増やしたいし、いろんな形の店をやりたい。イメージや目標はあるので、それを一個ずつ叶えていきたい」と語るご主人。思い入れのある仙台について訊くと「ゆくゆくは戻ってお店を持ちたいです。震災直後に出てきたので、見届けられなかったという思いがあります」。酒場激戦区の阿佐ヶ谷で開店1年を待たずに人気店となっても浮かれず、しっかりと現在と将来を見据えるご主人。信頼の置ける一軒として人が集まるのも納得だ。