「“まこと”という名前の人がいるんだよね?」と、入店早々きたろうさんが訊くと「ハイ、社長が西田真です」と、女性店長の劉鳳鵑(リュウ フェンチャン)さんが元気に答える。ここは昭和43年創業のやきとんの店「新橋やきとん まこちゃん」。酒場激戦区、新橋で5店舗を展開する人気店だ。焼酎ハイボールを注文し、いつものように常連さんと乾杯。フェンチャン店長オススメの、やきとんをいただくことに。焼き場に立つのは、この道43年という田中道夫総店長。ツヤツヤのたれ焼き、それもアツアツの5本盛り合わせが登場! 「やっぱハラミですよね」と、きたろうさんが言うと「本当に美味しい! 肉々しくって、ジューシーで!」とフェンチャン店長。「シロがフワフワ。中から旨みがブワッて出てきますよ」と、西島さんが言うと、またまた「焼酎ハイボールにぴったりでしょ!」とフェンチャン店長。番組進行役さながらの、ツボを得た感想を語ってくれて、場が盛り上がる。「うちはすごいですよ、サラリーマンの方がウワァ〜って来ますから。相席は当たりまえ。うちは突き出しもないから、本当に食べたいものだけ食べていただきます」。しかも1人3,000円もあれば、もう十分と言う大衆店なのだ。
次のオススメは「牛ハツ刺」と「牛ハツ網脂(の串)」。新鮮な牛ハツは、その絶妙な歯ごたえと旨みが持ち味。「タレと胡椒が“ガッ”と利いていて、さっぱりと美味しい」と西島さん。その刺身に使う牛ハツを網脂で巻いて焼いた串は、ボリューム満点で、きたろうさん曰く「これステーキだよ」と激賞。タレが網脂のコッテリにしっかり絡んで、またうまし!
店を継いだ若き2代目・西田勇貴さんによると、先代の真さんが店を開いたのは学生の時。21歳という若さで目黒にオープンし、昭和47年に新橋へ店を移転。その味が評判となり、次々と店を拡張していった。一方、フェンチャン店長はもともと関西の育ちで、親が真さんと知り合いだったという。「東京へ遊びに来た時に“新橋やきとん まこちゃんだぁ、名前を聞いたことある”って入ったら、すごく繁盛してて。“すごいですね、一度こんなところで働きたいなぁ”って言ったんです。そうしたら2、3年後に“まだその気ある?”って」。店長は22歳で結婚し、3人の子供に恵まれるが40歳で離婚。子供が大学に進学し、お金も必要だったため、45歳にして上京。「子供は学校の近くに住むというので、“解散!”って、東京に来たんです」。涙、涙のお別れを経て、慣れない土地で人一倍努力を重ね、子供たちは立派に独立。気づけば本店の店長になっていた。
3品目は「ふわっふわのトロトロのにら玉子を、胃に優しい感じで」とフェンチャン店長。その言葉に偽りなし。ぷっくり丸みを帯びたにら玉子は、これ目当てに来るお客さんもいるほどで、箸で突けばフルフルと揺れる。「これはうまいな。出汁といい、炒め具合といい。空気が入ってるねぇ、こりゃ玉子好きにはたまらない」と、玉子料理が大好きなきたろうさんを感激させる。最後の一品は、普通なら最初に出てくる定番料理「もつ煮込み豆腐入り」。締めにモツ煮とは、味への自信が伺える。黄金色をしたモツ煮のスープは、意外にもあっさり。「おじいちゃんでも、一人前ペロリと食べますよ」とフェンチャン店長が言うと、「確かにすごい。うわぁ、これは俺の好みだな」と、きたろうさん。すっかり、店の味にも雰囲気にも魅了されたようだ。
2代目は先代から店について“スタッフとお客さんのことを考えていれば、大丈夫”だと教えられたという。「うちにはマニュアルがないので、何をお客さんにしたら喜んでもらえるか、それぞれ考えて行動する。そこをスタッフが分かっているので、繁盛しているんだと思います」。また、フェンチャン店長は酒場を「笑顔になれるところだと思う。それに伝染するじゃないですか、笑顔って」と笑う。サラリーマンの懐に優しい店。しかし、それ以上に心に優しい一軒なのだ。