「笑う酒と書いて“えぐし”って読むんだ。いいねぇ、やっぱり酒を飲んだら笑わなきゃ」と、一行が訪れたのは東京都墨田区錦糸町、平成26年に創業した「和食Dining 笑酒」。調理場を仕切るご主人の藤嶋大久さんと、接客担当の妻・朋子さんに迎えられ、まずは焼酎ハイボールで今宵に乾杯。“えぐし”という名前の由来を訊くと、古事記に出てくる応神天皇の句からいただいたもので、歓喜のお酒を指す言葉だという。「教養があるねぇ」と感心するきたろうさんが、今宵いただくのはご主人の出身、秋田の食材を使った料理の数々。「俺の親父が(秋田の)角館出身だから、秋田にはうるさいよ」というきたろうさんを、ご主人は果たして唸らせられるのか!?
最初のおすすめ料理は、秋田の豚を使い、秋田で作られている生ハム。ホルダーに支えられた生ハムを一枚一枚薄く削ぎ切り、まな板いっぱいに広げて出される。「この生ハムは秋田の廃校になった小学校で作られているんです」と、ご主人。白神山地の冷たい風が、2年かけて豚肉をじっくりと熟成させ、絶妙の食感と香りを生み出す。「うまいね。もう塩加減がぴったりだね」と、一品目で早くもきたろうさんを唸らせる。
次のおすすめは、秋田名物のはたはたを塩焼きで。「えっ、大きい! はたはたって、こんなに大きい魚だったんですか?」と西島さんをびっくりさせた子持ちのはたはた。「秋田だったら標準サイズ。もっと大きいのもあります」という。身離れのいい白身はしっとりとして味も濃厚。「もうプリプリですね」、「身があるし、新鮮だねぇ。こんなはたはたを出されたら(店に)来ちゃうなぁ」と、二人は大満足。
ご主人は雪深い北秋田市の出身。大太鼓の里としても知られる地だ。甲子園を目指し秋田市内の名門・秋田商業に進学。多くのプロ野球選手を輩出した野球漬けの日々を「今、40歳を超えましたが、当時よりキツかったことはないですね」と振り返る。高校を卒業して地元秋田の信用組合に就職、7年間勤めた。「でも、自分のお店を持ちたくて。一人暮らしの時は、友達を呼んで料理を振る舞ったり。人が集まるところで料理を出すのが好きだったんです」。26歳で上京し、料理学校に通いながら飲食店でバイトに励んだご主人。妻の朋子さんとは、当時働いていたお店のお客さんとして出会い、付き合い始めて8年後に店を開業。同時に朋子さんもOLの仕事を辞め、店を手伝うようになった。
次の料理は、これまた秋田の地鶏を使った「比内鶏のグリル」。胸肉とモモ肉、それぞれの味と食感を楽しめるセットで、味付けの塩は、男鹿の藻塩を使用している。西島さんは「鶏の味がすごくしっかりしていますね。この脂と皮目の甘みを楽しむならモモかな」と、食べ比べを楽しんでいる。そして今宵の〆のメニューは「きりたんぽ鍋」。「秋田だねぇ!」と、きたろうさんを喜ばせた鍋は、地元から取り寄せたきりたんぽのほか、比内地鶏や野菜などが具沢山。「きりたんぽを噛むと、出汁をたっぷり含んでいて、ジワッと甘みが出てくる。美味しいなぁ」と、西島さん。地元の味を忠実に再現した鍋の決め手は出汁。鶏はもちろん、野菜の出汁がたまらない。実はこの出汁を使ったパエリアが、本当の〆の〆。常連さんが食べていたパエリアのご相伴に預かり、「この出汁でパエリアなんて……、うわっ美味しい。この炊き加減も間違いない!」、「出汁がねぇ、美味しいんだよ〜」と、西島さんもきたろうさんも、秋田づくしにお腹も心も満たされた様子。
「酒場とはお客様から教わる勉強の場。この店も完成形ではないので、教わりながら試行錯誤しているところです」と語るご主人。しかし、店の目指すところは見えている。「秋田の食材をもっとPRしたいです。うちで秋田の食材を食べてもらって、美味しいと思ってもらえたら、“じゃあ今度は、秋田に行ってみよう”とか、もっともっと秋田を知ってもらいたいんです」。心から秋田を愛するご主人は、お客さんの心をより深く掴むため、今日も精進を積み重ねている。