昭和の風情を色濃く残す、新宿区荒木町にある青森の郷土料理店「りんごの花」。西島さんが「青森感がすごい」と言う店内には、ねぶた祭りの写真がいっぱい。女将の茂木真奈美さんと、店長の小池政晴さんに笑顔で迎えられ、まずは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。喉を潤し、最初の料理をお願いすると「馬刺しがオススメです」と女将。馬刺しといえば熊本というイメージだが、青森の馬肉生産量は、熊本、福島につづく国内3位。生姜と刻みニンニク(ニンニクの国内生産量は青森が1位!)を付けて頬張ったきたろうさんは「うまい! これは九州に勝ったね!」とベタ褒め。「この甘さがすごい。噛めば噛むほどジュワジュワジュワって旨味が!」と西島さんが言うと、「青森の馬刺しは旨味が強くて、気候の関係かもしれないですが身が締まってるんです」と女将は言う。
次の料理をお願いすると、聞き慣れない「いがめんち」というメニュー名。「いかメンチ?」と聞き直すと「“いか”が、なまって“いが”。いかの漁獲量も日本で2位なんですよ」と聞いて驚く一行。揚げたてのアツアツを頬張り、きたろうさんは顔をクシャクシャに。西島さんは「歯ごたえというか、このいかの味がもう出汁ですよね。野菜と合うんだよな、この旨味!」と箸が止まらない。「今は物流が発達してますから、新鮮な魚も食べられるんですけど、弘前は内陸ですから、昔はイカが高級品だったんですよ。ですから胴体の部分は刺身で食べて、頭と足の部分は刻んで練り物にしてフライパンで焼いたり揚げたりしたんですね」と、店長が丁寧に教えてくれる。そんな青森の食材に詳しい店長だが、実は横浜出身。その理由は、この店を始めた理由にも繋がってくる。
もともと店長と女将は、食品会社の同僚だった。「私が営業で、彼女は商品開発。商品を全国に売り回っていて、青森県を2年半担当したんです。その時、青森の人に本当に良くしてもらって、青森が好きになったんです。色々調べると、いろんな食材の生産量が多くて、もっと東京で発信しなきゃ……と思ったんです。そのころ青森出身の女将と飲みながら、“じゃあ自分たちで会社を作って、東京から発信しようよ”って。それで作ったのがこの店です」と、店を始めるきっかけを語る店長。青森の郷土料理を出すにあたっては、強いこだわりがあった。「青森県全体をまんべんなく紹介したいんです。地元出身者の方が店を作ると、どうしてもその出身地域に限られちゃう場合があるんですけど、うちはもうオール青森で行こうと」。「それは店長が横浜出身で、青森の素材や料理を客観的に見られるからだよ」という、きたろうさんの指摘に店長も頷く。
次は「長いものバターソテー」。青森の長いも生産量もまた国内1位で、身が締まってキメが細かいという。「バターの香りが食欲をそそりますね」と西島さんが食べると、シャキシャキという小気味良い歯ごたえ。「味付け、しょっぱさの基準は東京に合わせているんですか?」と訊くと、「青森に合わせて若干しょっぱめです。青森の人が来た時に“あれ? これ薄いんじゃない?”と言われるのは良くないので」と、店長は言う。
最後のメニューは今が旬の「あんこう鍋」。あんこうといえば山口県の下関が有名だが、青森も同じくらいの漁獲量があるという。「青森の風間浦漁港は、漁場が港まですごく近いんですよ。それも、はえ縄漁で獲るので生きたまま揚がるんです」、「風間浦漁港に行くと、あんこうを刺身や寿司で食べられますからね」と、青森のあんこうの新鮮さに自信満々の店長と女将。大根や人参、キノコ、ネギなど青森の野菜と、濃厚なあんこうの肝や、脂の乗ったコラーゲンを含んだ身がたっぷり! 「弾力があるんですよね。あぁ〜美味しい。この出汁すごい!」と、西島さんの顔から笑顔が溢れる。
この店で青森の味を知り、「最終的には“青森に行ってください”というコンセプトでやっています。以前も、近所にお住いのご家族が、この店で青森の味を知り、“青森に行ってきたんだよ”って教えてくださって」と、その喜びを語る女将。味や出会いを通して見知らぬ土地を知る。そんな素晴らしい経験を得られる、ありがたい一軒だ。