東京から西へ、ちょっとした小旅行気分が味わえる埼玉県川越市。平成11年創業、飾らぬ店構えの「やきとり 中村屋」に入ると、ご主人の中村智仁さんはもちろん、ほぼ満席の常連さんが見渡せる、ちょうど良い広さの店内。さっそく焼酎ハイボールをお願いして、常連さんと「今宵に乾杯!」。まずはハツ、ぼんじり、レバーの焼き鳥3種をいただくことに。ししとうを挟んだハツに噛り付くと「肉汁が飛んだ! すごいプリプリ感ですね」と西島さん。鶏の尻尾の付け根、ぼんじりは脂たっぷりの部位だが、しっかり焼かれてサクサクに。「レバー嫌いの人も、食べられるようになったって喜ばれています」と、ご主人が言うレバーも絶品。「鶏は岩手県の地養鶏を使っています。放し飼いだから肉がしっかりしていて、本当、鶏さんのおかげです」と、ご主人は笑う。
母親が営む菓子屋を遊び場に、川越で生まれ育ったご主人。17歳で父を亡くし、大学卒業後は薬品会社に就職したが、27歳で脱サラ。菓子屋を改築し、牛乳の配達業を始めるが、42歳にして高校時代の柔道部の後輩・平野泰三さんの紹介を得て、都内の焼き鳥店で修行を始める。「修行先の店では、1日1本だけ焼かせてもらえたんですよ。自分で焼いたものを食ったら“不味い。こんなの出せねぇ”って思いましたね」。母親は息子の決意に「しょうがないね」と言っていたが、先の平野さんには「絶対やめさせて。普通に勤めていれば、普通に生活できるんだから、借金して途中でやめたってなったら……」と、息子を思いとどめるよう言いつけたという。2年間の厳しい修行に耐え、44歳で再び自宅を改築し開業するが、ご主人は「まだまだ修行の身だと思っています」と、精進を重ねている。
次のオススメは、ちょっと変わった名前の「やっぱりツクネ君」。卵黄につけていただく軟骨とネギ入りのつくねの美味しさはもちろん、お楽しみはそのつくねを食べた後。「残ったタレと卵をかけてどうぞ!」と出されたサービスライスだ。玉子かけごはんは、甘めのタレが白米に絡んで最高の相性。 「タレがもったい無いから」というご主人に、「分かる! 仲良くなれそう!」と、西島さんが頷く。
ご主人には、お店を手伝ってくれるパートナーの高橋富美江さんがいる。娘のアルバイトがきっかけで、東京で暮らしながら、週末だけ川越の店に通う生活を12年も続けている。そんな彼女がいたからこそのメニューが「ミニとりももバーニャソース焼きソテー」だ。食欲をそそるバーニャソースの匂い。そして何より嬉しいのが、おまけに付く炭火で焼いたフランスパン。ソースをたっぷりつけていただくと、実に美味しい。「彼女がイタリアレストランに食べに行って、バーニャカウダを教わったんです。料理って“ここまで”って止まったらダメだしね。日夜、新メニュー作りに明け暮れています」というご主人。最後のメニューも、富美江さんの影響を感じられる一品「中村屋リゾット」。ご主人自慢の鶏スープを使い、たっぷりのチーズで仕上げる。思わず「やった! ここはパラダイスですか?」と西島さんが叫ぶほど、女性受けの良いメニューだが、さらにはコラーゲンたっぷりで美肌効果もあるという。「うわー、鶏の味が濃くておいしい! 野菜の味も、ものすごくしますね。鶏だしの雑炊なら和風な感じですけど、これは洋風です」と、満足げな西島さん。
付き合い始めて11年。未だ富美江さんとの結婚に踏み切れないのは、ご主人のこだわりからだ。店の建物は母から受け継いだが、土地は借地だった。その土地を買い取った時の借金返済が、まだ終わっていないのだ。「ちゃんと借りたものは返して、自分のものにしてからプロポーズしたい」と、男気を見せるご主人に、「前倒しして、はっきりプロポーズをしなさいよ」と、きたろうさんが無理強いをする。すると「僕と結婚してください」とご主人。「じゃあ、家族になってください」と富美江さんが応え、まさかの番組内でプロポーズ成立。「彼女に会えてなかったら、どうなっていたか分からないです。店を畳んでいたかもしれないです」と涙を流すご主人。ふらりと川越まで足を伸ばして、そんな人情溢れる酒場で飲む酒は、きっと寒い冬の夜空に温もりを与えてくれるはずだ。