先週に続き埼玉県川越での2軒目。「きっと坊主が経営しているんですよ」などと言いつつ、訪れたのは「囲坊主」という酒場。迎えてくれたのは爽やかな男前のご主人、木野内健一さん。実はご主人、平成22年の創業から3年ほどは丸坊主だったという。まずは焼酎ハイボールをオーダーし、いつものように常連さんと「今宵に乾杯!」。最初のオススメは名物の「どて焼き」。ご主人によれば「うちはお通しが無いんですよ。だから食べたい方は、これを300円で頼んでくださいってお出ししています」という煮込み。八丁味噌をベースにハチミツなどを加え、オープンからずっと継ぎ足しているという煮込みを食べて「すごくいい匂いがする。柔らかくて美味いね。ご飯と一緒に食べても美味しいんじゃない?」と、きたろうさんはお気に入りの様子。
29歳にして独立したというご主人だが「実は、料理っていう料理の修行をしていないんです。前の店もホールで接客でしたから、見よう見まね」。調理場は料理長に任せているが、自分の出したい料理は頑固に押し通しているという。学生時代のアルバイトをきっかけに、いつか店を持ちたいという夢を抱き、地元の飲食店に就職。仕込みや接客、経営について学んだという。開業にあたり、ご主人には不安がなかったというが、店を手伝う母親の恵子さんは「もっと確実な仕事をしてほしい」と大反対だった。「小さい頃からやる気があって、なんでも挑戦してみようという子で、期待していたんですけど」と言いつつも、息子と一緒に働く日々は毎日が楽しく「この歳になって、息子とこんなに話ができるとか、普通はありませんからね」と笑う。
次のオススメはシンプルに、しいたけの炭火焼き。ただし、大人の拳よりも大きく肉厚なしいたけを使う。「これは入間の貫井さんのしいたけです。いろんな原木しいたけを食べたんですけど、ココのしいたけは香りが全然違う」と素材に惚れ込み、年に数回は自分で収穫に出かけるという。「貫井さんの紹介で、アスパラを栽培している北海道美唄の内山さんを紹介してもらったり、素材に関しては紹介、紹介でやっているんです。自分で見て、物を確かめたいというのもあるし、生産してくれる方とのコミュニケーションも欲しい。自分で手にとって、自信を持ってお客様に届けられるので」と、素材へのこだわりはハンパではない。実際にしいたけを食べてみると旨味が強く、なによりもみずみずしい。食感もまるでアワビのよう。続いて食べた、こだわりの深谷ねぎの炭焼きも甘くて絶品。きたろうさんが「美味しい食材が入った時は、すごく嬉しいでしょ?」と聞くと、「嬉しいですね。それを早くお客さんに見せたくて。“食べなきゃ意味ないですよ”ってオススメして、絶対食べてもらいますけどね」と笑う。
最後の一品はカレーうどん。「おばあちゃんが蕎麦屋をやっていて、そこのカレーうどんのレシピを母親が覚えていたので、おばあちゃんの味をそのままお店で出しています」。どこか優しく懐かしい味に「いや〜、気取ったカレーうどん出すところもあるけど、このカレーうどんはいいね。これをつまみに飲めるな」、「美味しい、最高! あ〜止まらん。出汁が効いているし、しっかりスパイシー。これは看板になるはずですよ」と、2人は大満足。最後にご主人の夢を聞くと「川越で一番になりたいです」という。まだ30代のご主人が、これからも今までどおりにこだわりを貫けば“川越といえば囲坊主”と呼ばれる日も遠くないはずだ。