店構えというのは、店の雰囲気やノリを教えてくれるものだ。今回訪れた「まるいち」の店先では、サングラスをかけた大きなパンダがお出迎え。何故にパンダ? しかもサングラス? ご陽気なノリを予感しつつ暖簾をくぐると「お帰りなさ〜い」というご主人と女将の声。予感的中! いつもどおり焼酎ハイボールをオーダーすると「へば、うまくつくりゃまねな(うまく作らないといけないな)」と、粋な方言で迎えてくれるのは青森生まれの女将・りつ子さん。この店は青森ほか、東北出身のご陽気な常連さんが多く、開店の17時から連日大盛況。そんな常連さんたちと杯を高く掲げて乾杯!
まず最初の一品は、おすすめ料理「ねぶた焼き」。これは青森の十和田市周辺のご当地グルメ「バラ焼き」をアレンジした一品。底の浅い陶板の鍋にもやしとタマネギを盛り、その上に豚のバラ肉を敷き詰め、甘めのタレとゴマを掛けてコンロで煮込みながらいただく。野菜と肉がいい色に変わったら食べ時で、女将が「食ってけれ」と教えてくれる。女性でも食べやすいように、ニンニクを控えた甘めのオリジナルのタレが秀逸で、「これはご飯が食べたくなるね」と、きたろうさん。実際、ねぶた焼きと白ご飯で夕食を済ませる人もいるのだとか。
いつも明るく、元気に店を切り盛りするりつ子さん。しかし、その半生は平坦ではなかった。「私ね、中卒なんですよ。兄弟が8人もいて、下っ端の方なんですけど、夏休みといえば芋掘りや大根掘り。家が漁師をしてたんで、浜に行って魚もらってきてご飯を作る。そんなお手伝いばっかりでした」。その後、24歳で上京し、知り合いもいない東京のスナックで働き、苦労を重ねる。そんな彼女の転機となったのが、当時サラリーマンをしていた赤羽出身のご主人との出会いだった。「みんなが明るく元気になれるようなお店を作りたい」という思いで店を始めた2人。順風満帆の夫婦を突然襲ったのが東日本大震災だった。東北出身の常連さんの足が遠のいたのも辛かったが、同じ東北人として被災した人のことを考えるともっと辛かった。「明るく接して、震災の話にあまり触れないようにしてね。常連さんが店に来たら“お帰りなさい”って元気よく迎えて、美味しいものを食べてもらう。それだけを心がけました」。お客さんを迎える「お帰りなさい」という言葉には、そんな思いが詰まっていたのだ。
最後に、必ず食べておきたい一皿として登場したのが、生いかのゴロ炒め。これも青森の郷土料理で、その日に仕入れた新鮮なイカをイカワタと一緒に炒めたもの。ゴロ炒めが大好きな西島さんは、「これを見たらちょっと飲まずにはいられない!」と歓声を上げ、焼酎ハイボールをおかわり。プリプリのイカの歯ごたえはもちろん、「まるいち」では門外不出のひと手間を加えてグッと旨味を増す味付けをしており、その美味さは格別! 食べ終えて残ったつゆは、ご飯と絡めていただくというメニュー(250円)もあり、イカワタ好きにはたまらない。
店を始めてから365日ずっと一緒に働くご主人と女将さん。「2人が一緒じゃない日はいつ?」と、きたろうさんが訊くと「ねぶた祭りの時ぐらいですかね」と、ご主人。この“ねぶた祭り”という言葉が出た途端に女将さんの目が輝く! 「ねぶたって踊った事ある?」。ねぶた祭りといえば、あの大きな山車灯籠というイメージの西島さん。「ねぶたって踊るんですか?」と返すと「山車の前を“らっせらー、らっせらー”って、跳人(はねと)が踊るんですよ。じゃあ踊りますか」と女将さん。やおら常連客が笛や鳴り物を取り出し、店が音で溢れかえる。踊りだした女将さんに誘われ「いいよ、いいよ」と尻込みするきたろうさんも、「俺は飲みにきたんだぁ」と絶叫しながら、ついには踊りだす。陽気な女将さんと、料理上手のご主人がいるかぎり、みんなを明るく元気にするという言葉に偽りなし。女将さんに「へばな(じゃあね)」と店を送り出された時、きっと心がいつもより軽く元気になっているはずだ。
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東日本大震災を経て、2年前から「お帰りなさい」と客を迎えるようになった。その言葉には、お客さんの一日の無事をねぎらう思いも。
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お手本となったバラ焼きでは牛肉を使用するが、こちらのねぶた焼き780円(税込)は豚肉を使用。ちなみにバラ焼きは昨年のB1グランプリで2位入賞!
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生いかゴロ炒め(780円・税込)は、新鮮さが命。イカワタのあの苦味が、酒呑みにはたまらない。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都北区赤羽西1−37−3
03-3905-1641
17:00〜25:00
日曜
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