今宵の店は東京都足立区梅島にある、創業から52年目を迎える「居酒屋こんちゃん」。厨房の壁には、びっしりと貼られた色とりどりの品書き。「メニューがいろいろありますね。綺麗だね」と、きたろうさんが言うと「正直、書くだけでも大変なんですけど」と、ご主人の関口浩二さん。この品書きは、毎日ご主人が手書きしていると言う。焼酎ハイボールをオーダーし、隣に座るご主人の母親、まさ子さんと一緒に乾杯。最初の一品をお願いすると、お刺身5点盛りが登場。「わぁ、上品! なんてキレイなの」、「割烹みたい。ここ酒場でしょ?」と包丁の技に驚く一行。「うちは食べる順番も考えながら盛り付けるのが好きなんで」と言うご主人の意図を汲み、平目、さより、カワハギ、本マグロの赤身、中トロといただいていく。「さより、うまいなぁ」、「このカワハギの噛みごたえ、身のシャキシャキ感と肝。もう参りました。中トロもすごい! お肉を食べているみたい」と、箸が止まらない!
店を始めたのはご主人の父、重信さんだった。「もともと八百屋さんで働いていたそうなんですけど、時代の流れで、これからは居酒屋がいいんじゃないかと、母親と始めたんです」。先代には料理の経験がなかったが、お店は瞬く間に大盛況。その陰には母親、まさ子さんの経験が生かされていた。「実家が貧乏だったから、家計を助けるために昼は会社で、夜は屋台で働いていました。おでんやラーメン、焼き鳥もやりました。それが17歳の頃から。そこでお客として来ていたお父さんに出会ったんです」という。屋台で培った、自慢の料理があったからこその繁盛だったのだ。一方、お父さんは休みの日でもコツコツ仕込みをする真面目なタイプで「お客様を大事にしなさいとか、どれだけ忙しくても丁寧にやるんだとか、年がら年中言っていました。その想いが強いせいで、私も妥協ができなくなって」とご主人。実は厨房の色鮮やかな品書きの裏には、父親が書いた味のある品書きの文字が隠れている。先代の気持ちを背負って、ご主人は日々、厨房に立っているのだ。
次は串物で「しろ」と「ねぎま」をいただくことに。ねぎまは千寿ネギを使用し、甘みたっぷり。「ネギがうまいね」と、きたろうさんが褒めれば、「しろはタレ焼きなんですね。すごく食べ応えがあります」と西島さんも絶賛。続いて「国産のアスパラがありますので、それを使ったアスパラのソテーを」とご主人。女性にも人気があります、という言葉は、皿を見て納得。黄色いバターソースに、緑鮮やかなアスパラガスが組み上げられ、まるでフランス料理のよう。筋子の赤色がまた、目にも鮮やか。この意外な演出に、きたろうさんも西島さんも大喜び。父親の作っていたものを、さらに彩りよく見せたい。その思いがこの一皿に繋がった。
最後の一品は、先代が苦労して作り上げた「ホルモン鍋」。「非常にクセのある食材でして……。豚のホルモンを、父親はいつも1時間半くらいかけて手で切っていました。でも、この豚モツでないとこの味は出せないんでね」とご主人。小さい丸鍋にホルモンの細切り。真ん中の卵を崩しながら食べると、味噌やコチュジャンの味と絡まり強烈な食べ応え。「他では絶対食べられないね。うまいな。ファンが多いでしょ」、「これにハマったら他では満足できないですよ。これは看板というか、忘れられないメニューですね」と、満足げなきたろうさんと西島さん。
野球が大好きで、学校の先生になって野球部の顧問をするのが夢だったというご主人。しかし両親の姿を見て、継ぎたいというより、この店を残したいという気持ちの方が強くなり店を継いだ。やるからにはちゃんとやらないとお客様に失礼だと、腕を磨き20数年もの月日が経った。ご主人は言う「ようやくこの仕事を継いで良かったと思っています。人の役に立てる楽しさというか、そういう事を毎日実感してます」。店を守りたいと行き着いた先に、お客さんの笑顔があった。一つの道を一歩一歩進めば、そこには何かが待っている、という事に違いない。