江東区亀戸にある酒場「酒呑処 遊び亭」は、なぜか長居したくなると評判の一軒。創業2年目と歴史は浅いが、ご主人の小矢さんと、料理長の田村さんが北海道出身で、故郷から直送した素材を使った郷土料理が人気だ。まずは焼酎ハイボールをオーダーして、常連さんと「今宵に乾杯!」。「この店は和風でもないし、洋風と言われたら洋風かな……。なんかこの空間ね、待合室みたいな感じ」と、きたろうさんが言うと、「ソファーなんでね、一回座っちゃうと長居したくなるのかもしれないですね。そのまま横になって寝られる方もたまに」と笑うご主人。最初のオススメをお願いすると、豪勢にも函館から直送の「フカヒレの松前漬」が登場。「この透明のツヤツヤしたのがフカヒレですね。美味しい、昆布の旨味がしっかり利いています。フカヒレのコリコリした食感がいいですね」。続いて登場したのは「スルメイカのルイベ(500円・税込)」。ルイベとは凍らせた食材をそのままいただく北海道の郷土料理で、これはスルメイカの沖漬けを凍らせたもの。「本場のものはうまいな。これ食べようと思っても、地元じゃなきゃ食べられないもんね」と、満足げなきたろうさん。
ご主人は高校卒業後、北海道から上京。「46歳までテレビの編集をしていたんです。でも若い頃から自分の店を持ちたいという夢があって、今が最後のチャンスかなと」。相棒の料理長は「23歳までプログラマーをやっていたんです。それから1年、料理学校に行って、それからは料理の世界ですね」。二人の出会いは、お互いが通っていた酒場だった。いつか自分たちの店を持ちたいと、様々な店を飲み歩き、理想の酒場を探し求めたという。それから15年、ここ亀戸に二人の城を築いた。きたろうさんが「店を始めて半年くらいは怖かったでしょう?」と聞くと、「怖いですね、今も怖いですけど」とご主人。「なんか酒場にいるような感じじゃないよね。二人の雰囲気が素人っぽくていいんだね」と、きたろうさんが言うと「それは喜んでいいのか、悲しんでいいのか」と複雑そうなご主人。きたろうさんは「いいんだよ、それは。全然喜んでいい」と励ますが、一点だけ気になるところが。「(食べた2品は)基本的に料理をしてないんだよ。うまいんだけどさ」。そう、今のところ焼いたり、煮たりの料理が出てきていないのだ……。
でも、心配ご無用。次は料理長自慢のオリジナル料理「ラム肉豆腐」。ラムのいい香りに「あぁ、熱々がきた!」「料理だ、料理だ」と盛り上がる一行。料理長曰く「肉豆腐って、なんの肉でも“うめーな”と思って。それならラム肉もイケるだろうと、ラム肉の味に合わせてタレを作っています」とのこと。「肉豆腐って、すごく甘ーくするじゃないですか。それがさっぱり目ですよね。これもラム肉に合わせているんですね」と西島さん。基本的にメニュー決めは料理長の担当。25歳から都内の日本料理店で修行を積んだ料理長に、全幅の信頼を寄せるご主人は「味に関しては任せています。間違ったものは作らないと思っていますから」と語る。
最後の一品は「厚切りベーコンステーキ」。ステーキと名乗るだけあって、たっぷりの厚み。西島さんは「脂身がプリンプリン!」と喜ばせ、ベーコンの香りが、きたろうさんの焼酎ハイボールのピッチを上げさせる。ご主人に、お店のこだわりを聞くと、「全くこだわらないところが、こだわりかもしれないですね」と言う。そのちょっと気取った感じに、きたろうさんが「カッコいいこと言うよね」と突っ込むと、ご主人はごく真面目に「こだわると、枠にはまってしまう。枠を取り払った方が、自分もお客さんも楽だと思う」と言う。酒場とはズバリ「呑ん兵衛の憩いの場所」だと答えるご主人。その肩ひじを張らない姿勢が、この居心地の良さを生み出しているに違いない。