今も江戸の情緒を残す、東京都中央区入船。その街の雰囲気に馴染む、創業52年の老舗酒場「入船 鳥福」。調理場を仕切るご主人の菊池常男さんと女将の敏子さんに加え、息子で2代目の正典さんとその妻・智子さんの家族4人で切り盛りする一軒だ。席について、まずは常連さんと焼酎ハイボールで「今宵に乾杯」。おすすめをお願いすると、出てきたのは「つくね」。「うちのはちょっと大きくて。これはもう、ずーっと作り続けている“つくね”なんです」と、ハキハキ説明してくれる女将。黙々と手を動かすご主人とは対照的だ。「大きくて、美味しい! すごく滑らかですね」と西島さんが褒めると、「焼き具合が見事だね」と、きたろうさんが感心する。焼きは二代目の担当で、その腕前は一級品だ。「主人と結婚して、主人の実家の屋号をもらって、ここにオープンしたんです。“鳥福”っていう名前は、もう嘉永とか、それくらいの時代からあるもので……」と聞き、江戸時代から続く長い歴史に驚く一行。「私が築地の出で、主人が八丁堀。お互いの実家は歩いて10分くらいのところなんですが、結婚はお見合い。主人が“是非お願いします”って……、まぁ、それは冗談」と笑う女将。きたろうさんが「大将、最初に会ったとき、女将が綺麗で、びっくりしたんでしょう?」と、からかうと、穏やかに微笑むご主人。今では珍しい、江戸っ子らしい夫婦のようだ。
次のオススメは、ご主人が実家での修行時代に覚えたという「う巻(1,400円・税別)」。ふっくらと焼き上げたうなぎに、代々継ぎ足されてきた秘伝のタレ。それを出し巻き卵で包み込む。玉子焼きが好物のきたろうさんには、たまらない一品だ。「うまい、柔らかい! 贅沢だよね、注文受けてから作ってもらってさぁ」と、実に満足そうな顔になる。
続いては、中国料理店で修行を積んだという、二代目が考案した「油淋鶏」。二代目の油淋鶏はカレー風味で、揚げたての香りが抜群。「これは本格中華だよ。食感も柔らかくてうまい! ピリッと辛くてさ」、「このカレー風味がお酒とあいますね」と、きたろうさんも西島さんも大満足。“二代目には違うジャンルをちゃんと学ばせよう”と、女将が修行に送り出したのだという。3年間の修行の約束だったが、修行先の人手不足を女将が聞きつけ、“お礼奉公もしなさい”と5年半も勤め上げたという。立派に成長を果たした二代目に、店を任せられるかと聞けば、「もうちょっとかな」と答えるご主人と女将。その言葉には、まだまだ現役だという自負と、二代目への高い期待が感じられる。
お店を続ける秘訣を聞かれ「やっぱり一生懸命やることですよね。そして誠意を見せること。それに店をやっていると、お客様から教わることが多いですからね」と答える女将。最後のメニューをお願いすると、自信たっぷりに「うちの主人が、一生懸命作った鳥雑炊」との答え。その器が出てきて、さらにびっくり。ボリューム満点で具沢山。「お野菜の味がすごく出ていますね。なんて透明感のある出汁なんだろう」という西島さんの言葉どおり、その上品な出汁がスルスルとお腹に収まっていく。また、この〆以外にも二代目の作る「醤油ラーメン(1人前650円・税別)」も人気だという。受け継がれた味を守りながら、メニューも新しくする。老舗の暖簾を守るということは、実は変化に満ちた試行錯誤の結果で、その芯はぶれることなく、常にお客さんに真摯で誠実であり続けることが大事なのだと教えてくれる一軒だ。