飴色に光る天井に、壁一面に貼られたメニューの短冊。ここは江東区南砂、大衆酒場をこよなく愛する人には、つとに有名な「山城屋酒場」だ。「店に入ってなんでココが有名なのか分かった。すごく落ちつくんだ。外から見てたら“看板を直せよ”って感じだったけど(笑)」と、きたろうさんが言うほど居心地がいい。それは店を切り盛りする女将の晴美さんや、その弟で4代目主人の勢治さん、店を温かく見守る先代(三代目主人)の和夫さんによるチカラが大きい。そして何より創業60年という歴史が作り上げた店の佇まいが、居心地の良さを生みだしている。常連客も地元の筋金入りの酒好きばかりで、親子3代で通っているという常連客も珍しくない。15年も通って「私などまだまだあまちゃんで……」と謙遜するような常連客と、焼酎ハイボールで乾杯し、今宵もスタート!
さて、問題はつまみだ。壁の短冊に書かれたメニューは100枚にものぼり、迷ってしまう。そこで女将のオススメ「たこ三種盛り」をいただく。この日は歯ごたえの良いヤナギダコに味自慢のマダコ、そして酢の加減も絶妙な酢ダコというラインアップ。食感も味も異なる食べくらべも楽しいが、なにより新鮮でタコ本来の濃厚な旨味が、酒と実に良く合う。きたろうさんが常連客に「やっぱりこの辺りで飲むならここが一番?」と聞くと、「山城屋はここら辺の(酒呑みの)ルーツですから、どこかよそで飲みに行く時にはまず山城屋で一杯飲んでから。で、帰りに最後の仕上げをまたココで飲んで帰る」と言う。店は代々家族経営で、親族以外の店員が入った事も無い。「じゃあ気づかいもなくていいね」と、きたろうさんが言うと「だから私が一番威張ってますよ」と、女将さんはカラカラ笑う。
次にいただいたのは、西島さんが迷いに迷って選んだ「にら玉」。4代目のご主人が、父親の背中を見て学んだ料理の一つで、新鮮なニラを塩、コショウ、ゴマ油で味付けして卵を絡めた自慢の一品。ニラが多めでシンプルな味付け、しかし箸が止まらないうまさ。西島さんは特に「このちょっと中華風のダシがきいてておいしい」と、自分のセレクトに大満足!
今、4代目のご主人と共に、調理場で働いているのが5代目を継ぐ事になる潤さん。丸坊主のせいで少し歳より若く見えるが、そのスッと切れ長の目に強い意志を感じさせるいい男。店を継ぐ決心をしたのは、おばあちゃんにあたる前の女将の姿を見ていたからだという。「優しいおばあちゃんが大好きで、働く背中を見て育ちました。そんなおばあちゃんが具合を悪くしまして、それで“俺が代わるよ”って店に出ました。今思うと何年か一緒に働けて良かったです」。83歳まで店に立ち続けた先代の女将は、ある言葉を残して昨年亡くなった。その言葉とは「ぬか床を腐らせるな」。開業から60年以上受け継がれてきたぬか床で作った、キュウリのぬか漬けはこの店の誇り。「これはなかなか食べられないよ、たまらない! どれくらい漬けてるの? 1日?」ときたろうさんが訊くと、「夏は4時間ですね。古漬けが好きな人もいますが、おばあちゃんはキュウリの色にこだわってましたからね」と女将。さらに酒の〆に出てきたのがしじみ汁。うまい酒のあとのしじみ汁ほど、染み入るものは無い。そのおいしさに、言葉もなくなったきたろうさんと西島さんは「ほっとするぅ」と言いつつ、「へへへへへ」と自然に沸き上がる充足の笑いが止まらない……。
最後に店の皆さんに夢を訊くと「このまま続けていければいいです。ここで生まれ育ってますから、最後までここでずっとね」という4代目に「仲良く健康でやれればいいですよ」と女将。欲のないお二人に対し、5代目は「歴史ある店なんで、これからもずっと続けつつ、もっと大きくしていきたいですね」と力強い。その言葉を意気に感じ「一番いい答えだった。その夢をずっと持っててね!」とエールを贈ったきたろうさん。すっかり、この店のファンになってしまったようだった。
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その日の仕入れにより内容は変わるが、その美味しさは折り紙付きの定番オススメメニュー。たこ三種盛り(690円・税込)
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4代目主人の言葉に「私も“正直”や“一生懸命”って言葉が好き」という女将。そんなお店だからこそ、愛され続けるのかもしれない。
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自分の家のぬか漬けが一番と思っていたきたろうさんも、山城屋酒場のぬか漬けには舌を巻くほどのうまさ。まずはしょう油をつけずに食べてほしい。キュウリのぬか漬け(220円・税込)、しじみ汁(290円・税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都江東区南砂1−6−8
03-3644-8612
16:00〜23:00
日曜
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。