「酔(よい)の助(すけ)と書いて、よのすけ。歌舞伎みたいで、いい名前だね」と、一行が訪れたのは、東京千代田区神保町で創業39年目を迎える「酔の助」。110席もある広い店内を切り盛りするのは、店長の一山文明さん。いつものように常連さんと、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。さて、オススメをお願いしようか、というところで店を見回すと、150種ものメニュー短冊。「この中でオススメって難しいね」というと、「一番出ているのは、ガンダーラ古代岩塩のピザですね」と怪しげなメニュー名。「生地も薄いので、食べやすいっちゃぁ、食べやすい」とオススメされて出て来たのは、具が見えないプレーンなピザ。ガンダーラ地方原産の岩塩を細かく砕き、ピザ生地に振り掛け、オリジナルのミックスチーズを焼くのだという。「これはツマミになるよ。そんなに塩が強烈じゃないし、美味い!」と、きたろうさん。店は古くても、意外に味はハイカラだ。
店長の一山さんは、繊維関係の会社で営業マンとして働いていたが、常連だった店のオーナーに誘われ、酔の助を手伝うようになった。昼は営業マン、夜は酒場で接客という生活を始めて2年半後、酔の助の2号店ができると、28歳の若さで店長に抜擢され、繊維会社を退社した。「自分も飲むし、居酒屋は色々知っているし、全然問題なくスムーズにするっと」と笑う店長。平成6年に2号店が閉店し、それからは神保町のお店の暖簾を守り続けている。
「次はヘルシーな“玉ねぎの玉ねぎソース”を」と店長に言われ、「なんだ、それは?」「玉ねぎが2回出てきましたね?」と、不思議がる一行の目の前に登場したのは、飴色の新玉ねぎ。玉ねぎを擦って作ったソースが、また実に美味しそう。「俺は玉ねぎが大好きなんだよ。うまいねぇ」「あっという間になくなりそうですよ。アイデアがすごいですね」と、料理を褒めると、「色々やりすぎちゃって、(メニューも多くて)目移りするから、お客さんがかえって混乱しちゃってますね。でも絞れって言われても、やっぱり愛着がありますからね」と店長は語る。
アイデア料理はまだまだ続く。次はたこ焼きが入ったミートグラタン。「グツグツいってるよ。たこ焼きというか、グラタンの味の方が勝ってるね」「でも美味しいですよ。これはアイデアだ!」と、奇跡のマッチングに驚く2人。常連さんご夫婦はこのアイデア料理について「食べると意外に美味しくて、納得させられるじゃないですか。アレンジが繰り返されて、繰り返されて、元ネタがなんだかよく分からないけれど、でも美味しい。私はこれを、個人的に“ネオ日本食”と呼んでいるんです」と熱く語る。さらに店長のことを聞くと「女性が酒場に来ると、“女の子が来た!”って、チヤホヤされることがあるんですけど、本当に酒場が好きだと嫌なんです。普通でいてくれることが、女の酒場好きとしては、本当にありがたい」とのこと。これに「分かるぅ〜!」と西島さんも共感。
次の料理は「鉄板焼きコロッケ」。小さい鉄板に乗った、こんもり黄金色の一品に「可愛い。何これ? コロッケ?」と西島さん。衣のないコロッケをマヨネーズで覆い、オーブンで焼いたもので、西島さん曰く「ポテトサラダとコロッケのハイブリットみたいな感じ。どっちも食べた気分になる」という一品。きたろうさんも「どこがコロッケだよ。でも、ジャガイモ好きにはたまらない」と頬を緩ませる。そして最後は「山芋の鉄火巻き」で〆。シャキシャキッとした歯ごたえの鉄火巻きで、お腹も大満足。店長に、ここまで続けて来られた秘訣を訊くと、「僕自身が何かをやっているわけじゃないです。いいお客様に恵まれたということ。ただリピーターさんを、大事にしなくちゃ長くは続けられないです。年間360日いらっしゃるお客さんもおられますから」と店長。もはや我が家のように生活に馴染む店。それこそが「酔の助」の魅力だ。