「江戸を感じるね。酔月! 粋な名前だね、これはもう店の外側から期待できる」と、きたろうさんが訪れたのは、東京都江東区、木場で創業37年目を迎えた酒場「酔月」。調理場を仕切るのは、二代目のご主人・古畑浩明さん。そして、お客さんを笑顔でもてなすのは、先代の女将で二代目の母・孝子さん。早速、焼酎ハイボールで常連さんと“今宵に乾杯!”。最初のオススメは、マグロの大トロと、ハマチとタイの刺身3点盛り。これが想像以上、お値段以上にボリュームたっぷり。「結構厚切りですね。あぁ美味しい。このタイの甘み! 大トロはすごい脂。ずーっと、大トロの余韻が口に残っていて、その余韻で飲める!」と西島さん。「ハマチ、焼酎ハイボールに合うねぇ」と、きたろうさんも満足げ。この店は二代目の父、力雄さんがもともと鮮魚店を営んでいた場所だという。「私で三代目。明治40年からやっていました」と、隣に座る力雄さんが話してくれる。昭和57年、孝子さんが42歳の時に、この鮮魚店の近くに酒場を開業。「この街にはこういうお店がなくて、やってみようと。素人からやったから大変でしたよ」と女将。ご主人が仕入れる安くて新鮮な魚を提供すると、店はすぐ人気に。そして昨年、力雄さんが鮮魚店を閉めたことをきっかけに、その場所へ店を移転した。「スーパーに負けたの?」と、鮮魚店を閉めた理由を聞くと、自信たっぷりに「負けない、負けない」と力雄さん。「60年も魚を見ているから、口じゃ言えないけど(うまい魚は)見りゃ分かるよ」と、今も息子のために築地へ足を運んでいる。
次のオススメは、店の大人気メニュー「大根煮」。「お刺身食べた後に大根、体に優しそう」という西島さんが、出てきた大根煮を見て「すごい大きさがきた」と、びっくり。大根の半分はあろうかという、煮物がドン! 大根1本で2人前か3人前くらい、という大根煮がまた、飴色で実に美味しそう。その色味から、相当な時間がかかっていることが分かる。「お魚の出汁の香りがものすごい! 美味しい!」「うまいねぇ」と、一同感激!
二代目の修行は、高校生の頃、この店のバイトから始まった。女将は「私が『もうやめる』って言ったら、『じゃあ俺がやるから』って。そしたら今、こき使われてる」というが、その顔は幸せそうだ。二代目は「もともと、昼にサーフィンをやってて、夜の仕事がいいなと。都合が良かったんです。サラリーマンになったら、サーフィンに行けないじゃないですか」と笑う。
続いてのオススメは「めひかりの唐揚げ」。淡白な白身とふんわりした食感で、最近人気の魚だが、これを少しスパイシーに揚げて、頭から丸ごと食べる。「ふわふわ。あっおいしい。揚げたてうまーい。こりゃたまらん魚づくし」と、西島さん。きたろうさんが、お客さんの変化を訊くと「私がやっていた頃の人は、みんなもう定年退職で去ったり、随分変わりましたね。やっぱり木材関係の、ヒノキの匂いがする人が多くてね。製材所が多かったから」。お客さんが変わっても、今も変わらないものがある。常連さんの2人組は、深川の富岡八幡宮の3年に1度行われる本祭りで、二代目と神輿を担ぐ仲間。1642年から続く盛大な祭りでは、約120基の神輿が町を練り歩くという。その土地に根付く、歴史と人情。それだけは変わらない。
最後のメニューは「からすがれいの西京漬け焼き」。からすがれいは身が柔らかく、煮ると身が崩れるので、塩焼きか西京焼きが一番美味しいという。焼いた後に骨を抜いた厚い身は、食べ応えも十分。「うまい。魚そのものがうまいな」「脂がめちゃくちゃノッていますね。柔らかいし皮ごとペロリですよ」と、2人は大絶賛。今の二代目の仕事ぶりを、力雄さんに訊くと「まぁまぁだね。もう任せているから、何も言いません」。すると二代目が「何か言われても、聞きません」と笑って返す。この雰囲気がたまらない。うまい魚と木場の人情、その二つが交錯する酒場の名店だ。