「いやぁ、でかい提灯だなぁ」と、きたろうさんが驚いたのは東京都豊島区、JR大塚駅のすぐ近く。名は体を表す、の言葉どおり、「大提灯」というこの店。調理場を仕切る3代目のご主人、伊藤嘉朗さんと、接客担当の美佐子さんに迎えられ、早々に焼酎ハイボールをオーダー。常連さんと乾杯を交わし、創業以来60年続く「もつ煮込み」をいただくことに。「もつ煮って60年も、もつものなの?」と、きたろうさんが冗談を言うと、静かに笑って「まぁ、“もつ”煮っていうくらいですからね」と返すご主人。なかなかに侮れない。「ちょうどいい味。シンプルで濃くなくて、美味しい。臭みが全然ない」と、きたろうさんが褒めると、「もつの食感が、残っている感じ。プリプリ感がいい」と、西島さんも褒める。白味噌を使った合わせ味噌が上品で、味噌汁のように飲めるのもいい。
店の歴史を訊くと、一枚の古い写真を取り出し「うち、もともと上総屋っていう酒屋だったんですよ」と、ご主人。「もう提灯がでかいよ。はなから、こんなにでかい」と、写真を見て驚くきたろうさん。「お客さんが、上総屋って名前が面倒臭いって、“大きい提灯、大きい提灯”って言ってるうちに、店の名前になったんです」と言う。その写真にも写っている祖母のもよさんが、昭和30年頃に、東池袋から今の場所に移して開業したのがこの店だった。「小さい頃は、親父が忙しかったもんで、おばあちゃん子でした。おばあちゃんは、店をやってた時は、魚屋さんもビビるほどの人で。中学の時、朝起きなかったら、馬乗りになって引っ叩かれたことありますもん(笑)」と、ご主人は振り返る。17歳で店を手伝うようになるが、「親父に教わったのは、煮込みとタレと、やきとんの切り方ぐらい」だとか。23歳で店を離れ、大阪や和歌山の和食店へ4年の修行に出たのも「ウチの店にいると、やっぱり息子扱いになっちゃう。お坊ちゃまと、呼ばれますからね」。再び大塚に戻り38歳で店を任され、代々受け継がれてきた味と、大提灯を守っている。
次の一品は、名物の「やきとん」。“継ぎ足し続けて60年”というタレでいただいたのは、レバーとシロ。「濃厚ダレが、レバーに本当によく合う。それがシロになると、タレの甘さが出てきます。それぞれにすごくちゃんと合ってる」と西島さん。
続いては、ご主人が小さい頃からあったというメニュー「はんぺん納豆揚げ」が登場。はんぺんも納豆も大好物というきたろうさんは、「はんぺんで納豆を包んで揚げてるんだ。これね、ありそうで無いよ。初めて食べる」と目を細める。西島さんは「美味しい! これ好き好き」とパクパク。「不思議だなぁ、(はんぺんも納豆も)自己主張してない感じだね。揚げ方も絶妙なんだよ」と褒めつつ、「好きなお客さんと、嫌いなお客さんっているよね?」と、答えにくい質問をするきたろうさん。すると「あ、それはそうです」と、あっさり答えるご主人。「でも、嫌いなお客さんを、好きにさせるのがテクニックじゃないですか。“ヤだな”と思っても、意外といいお客さんだったりしますから」。接客担当の美佐子さんも「カウンターのお客様って、個性的なお一人の方が多いので、“話し掛けるんじゃない”という方もいるし、“ちょっと話したい”という方もいる。それを見極めるのがすごい」と、ご主人の接客の勘の良さには驚くという。
最後の一品は「キャベツ水餃子」。これはご主人のオリジナルで、熱い陶器の浅なべに餃子やシイタケ、キャベツやブロッコリー、ワカメなどを入れた一品。かけられた自家製のラー油の香りが、なんとも食欲をそそる。「ご飯が食べたくなる感じで作ってます」と、ご主人。「結構辛味が利いてて、すごく美味しい」と西島さんも満足げ。店の味の基本は、常におばあさんの味。「料理を教えてもらったわけじゃないけど、おばあさんの料理を食べて育ってますから、自然にそういう舌になってます。自分が生きている限りは、その味を守り続けていきたいなと思ってます」という。これから70年、80年、いや100年愛され続ける味を、この大塚で味わってみてほしい。