浅草の雷門通りの一本北側、東西に延びる食通街にある、平成25年創業の「炉端 炭男」。お店を切り盛りするのは、店長の宮島央一さん。ちょっと強面だが、話し方は優しく、物腰も柔らかい。まずは焼酎ハイボールで、常連さんと一緒に「今宵に乾杯」。暑気を払うようにゴクゴク喉を潤してから、刺身の「鮮魚盛り合わせ」をいただくことに。出てきた皿を見て、きたろうさんも西島さんも「うわぁ、豪華すぎる! すごい種類だね」と感激。金目鯛、甘鯛、シマアジ、中トロ、アズキハタ、サザエ、甘えびと全7種。ボリュームもたっぷりで、これで2人前1760円とは破格。「金目鯛、メチャクチャ脂が乗っていますね」、「新鮮だ。甘鯛が新鮮! これは朝〆だよね。シュンシュンだよ」、「アズキハタが美味しい! 柔らかい」と、一口食べるごとに言葉が止まらない。魚は、築地に知り合いがいて、特別に出してもらっているという。
店のオープンは5年前。それから半年ほどして“魚ができる人を”というオーナーのご指名で、店長についた宮島さん。そもそも料理人を目指すきっかけは、ワーキングホリデーで、ニュージーランドに行った事だった。半分は遊びのつもりで訪れた国だったが、そばと定食を出す店で働き始め、そこで料理にハマってしまう。「厳しい親方だったんですが、日本に戻ったら、料理をやった方がいいよって」。帰国したその足で上京、21歳の時だった。それからは、新宿の和食がメインの創作料理店、池袋の懐石料理店、さらには錦糸町にある寿司屋に、駒込のイタリア料理店など、様々なジャンルの店で修行を積んだ。「色々経験した分、誰にも真似できないと思って。同じ経験をした人は、いないと思いますから」と店長。厳しい修行で我慢を覚え、薄給の代わりに技術を習得していった。
次のオススメは「炭火焼き 野菜盛り合わせ」。今が盛りのアスパラガス、とうもろこし、エリンギを炭火で焼くシンプルな料理だが「すごいアスパラ、うまいよぉ。一気に食べてしまう。ホコホコになりすぎて繊維を感じないほど。コーンも美味しい!」、「とうもろこしって、焼酎ハイボールに合うんだよ」と、夏野菜のパワーを満喫。続いては、のどぐろを炭火焼きで。旬や仕入れで、料理の内容が全部変わったりするほど、素材にこだわる店長。「お魚を使う和食が、僕の一番得意な分野なので」と、特に魚を見る目は厳しい。「魚は炭のそばで(串で)立てて、余分な水分を落としながら焼くんです」と店長。一匹丸ごと焼かれたのどぐろは、長崎で釣られたもの。「美味しい。振ってある塩も美味しい。皮が美味しいのも、炭ならではですよね」。パリッとした皮に、ふっくらした身。炭火焼きのマジックを感じさせる一品だ。
続いては「ひな鶏の丸揚げ(ハーフ)」。食べやすくカットされた素揚げは、アツアツでカラッと揚がり、とにかく皮がうまい。味付けは、塩と胡椒、そして6時間ほど干すことで皮をパリッとさせて、甘みを増すのだという。しかし、店長の料理は刺身に焼き魚、お肉と実に幅広い。と、思っていたら最後の一品は、なんと「手まり握り」。3年にわたって寿司屋で修行した技を生かしたこの一品は、海苔の上に白米の握り、その上に生の本マグロ、イワシ、シマアジのヅケが乗る3カン構成。「これはおにぎりと、寿司の合作だね。初めての感じかもしれない」と、きたろうさん。ヅケのしっかりした味に満足感があり、食べ応えも十分。〆にぴったりだ。
ニュージーランドから始まった料理の修行。いろんなジャンルを学んで来たことは、大きな自信につながっているという。様々な調理場で吸収してきた技術を、惜しみなく出す“今”。その上で「手を抜いたら、売上が下がっちゃう。常に一生懸命じゃないと」と、日々の精進を怠らない。まさに今が旬、脂の乗った店長の料理は、今が食べ時だ。