2014年4月に放送を開始した「夕焼け酒場」の、記念すべき200回目の放送は、北陸の古都・石川県金沢市からお届け。金沢といえば、加賀百万石の繁栄に支えられた豪華絢爛な郷土料理と、海の幸。期待を胸に、きたろうさんと西島さんが向かったのは、兼六園や金沢城公園にほど近い、木倉町通りの「味処 浜の」。昭和61年の創業で33年目を迎える店では、厨房で腕をふるう浜野富雄さんと、笑顔を絶やさず接客する女将の和子さんがお出迎え。そして、これで200回目となる焼酎ハイボールでの乾杯を、常連さんと交わし、北陸の美味をいただくことに。最初の一品は「生だこぶつ切り」。「岩だこを使ったタコがうちの名物で、これ、今生きているタコを、ごま油と天然の能登塩で食べていただきます」と、掴んだタコに包丁を入れるご主人。殺菌のためにサッと熱湯にくぐらせ、中は生のままをいただくと「歯ごたえが、モッチモチ。味もごま油に負けないですね」と西島さん。「私は能登の海のそばで生まれたんですけど、タコを生で食べたことがなくて、大阪で初めて“生で食べられるんだ”と知って。それで、石川県でも食べさせたい、と始めたんです」というご主人。以来、店の名物となり、女将曰く「私たちの結婚式、“ウエディングケーキ、入刀”じゃなくて“タコ、入刀”になったんですよ」と笑う。
次の料理は、金沢の郷土料理「鴨の治部煮」。とろみを帯びた焚き合わせの椀に「やっぱり、合鴨はうまい!」と、きたろうさん。「小麦粉を具材ひとつひとつ付けて、小さい火で、じっくり煮込んでいくと、とろみが出るんです。金沢は麩が有名で、その中にも“すだれ麩”という麩が入っています」。独特の食感で、特に治部煮には欠かせないという“すだれ麩”は、まさに北陸の素材だ。
小学2年の時には、料理人になりたいと思っていたというご主人。「おじさんにインスタントラーメンを作ったら、“美味しいな。お前、この道に進んだら?”って言われて、それがきっかけでしたね。家が貧乏で、5人兄弟の一番下。父親はずっと出稼ぎに出ているし、小学校2年から高校卒業までずっと新聞配達していたので、早く独立して、早く家を買いたいなと思っていました」という。高校卒業後、調理師専門学校を経て金沢や大阪の日本料理店で修行を重ね、なんと26歳の若さで、自分の店を構えた。奥さんとの出会いは、18年前の町内会で。富山県出身の女将は、「浜の」と同じ町内で酒場を経営していて、互いの店を行き来するうちに、交際がスタート。わずか1年後には結婚し、女将は自分の店を知人に譲り、ご主人を支えることになった。「嫁さんに逃げられないようにするのが目標です。逃げられたら、もう私は終わりかなって」と笑うご主人から、その絆の深さがうかがい知れる。
次のおすすめは、加賀野菜の金時草を使った酢の物。聞き慣れない野菜だが、葉の表が緑色で、裏が紫色という、見た目にも清々しく美しい夏野菜だ。さらに、ちょっと苦味とネバネバがあり、酢の物にすると実にさっぱりいただける。続いては「バイ貝のバター焼き」。「地元の人には、すごく人気があります」というバイ貝を、シンプルにバターで炒めた一品で、磯の香りをバターが包み込み、箸が止まらない。「すごい歯ごたえがあるね」、「口の中で踊りますよ」と一行は、その味に大満足。「僕ら和食の料理人って、バイ貝だとすぐに“お刺身!”って感じになるんですけど、やっぱりいろんなものを取り入れないとね。あちこち食べに行って“あぁ、こういうやり方もあるんだ”って、取り入れながらお出ししたいんです」と、ご主人は言う。
最後に“これだけは食べて帰れ”のメニューをお願いすると、「これから赤イカがシーズンになるんですが、その石焼き。魚醤を絡めてお出しします」と、ご主人。魚醤を絡めた、刺身でも食べられる新鮮な赤イカを、カンカンに熱せられた石版の上に置くと、弾ける音と魚醤が焦げる匂いが煙と共に立ち上がる。焼き過ぎず、生のような状態でいただくと「噛み切れないのかと思ったらサクサク噛めるし、何より、ゲソが美味しい!」と西島さん。北陸の素材、味覚を満喫し、最後に“酒場とは何か?”を聞くと、「人に元気を与える場所でありたい、と思っています。そう、病院ですね」と答えた女将。すると、きたろうさんが「酒場とは……、病院……? そんなところに誰も来ないよ!」とツッコミ、店中が大爆笑! わずかの時間で、この打ち解けよう。それも加賀の美味と、人柄のせいに違いない。