放送200回記念スペシャルの第二弾は、石川県金沢市で創業61年目の「おでん よし坊」。外まで漂うおでんの香りに、胸を膨らませて店に入ると、女将の越田良枝さんと、三代目で息子の皓太さんが笑顔で迎えてくれる。金沢といえば伝統的な加賀料理に北陸の海の幸、寿司などが有名だが、おでんの名店が多いことでも知られている。市内には80軒以上の店が、おでんの味を競うが、この「よし坊」は事情通が指折り数える中に、必ず加える一軒だ。常連さんと、早々に焼酎ハイボールで乾杯し、自慢のおでんをいただくことに。ここ金沢では冬も夏もなくおでんを食べ、この地ならではの具材も多い。「まずは車麩。これはもちきん(もちきんちゃく)で、中に玄米餅が入っています。あと金沢は、バイ貝も有名なんです」と、見慣れないタネで皿がいっぱいに。「欲張っちゃったぁ。おでんのバイ貝、食べてみたい!」、「お麩って、あまりないよな。お、出汁がうまい。ちょっと京風だね」、「バイ貝のお出汁もよく出て、美味しいですよ〜」と、きたろうさんも西島さんも大満足。味は代々守り続けられてきた味かと思いきや、三代目の皓太さんが「昔と同じ事をしてもダメだと思うので」と変えているという。老舗にして変化と進化を恐れず、味を深化させる。20代にしてその決断。なかなかできるものではない。
昭和32年、初代の女将・鈴江さんがおでん専門店として開業した「よし坊」。店は繁盛し、やがて長男の嘉弘さんが店を手伝うようになった。服飾デザイナーをしていた良枝さんが、嫁いだのは24歳の時。初めて経験する酒場の仕事に、戸惑うことも多く、また姑の鈴江さんも厳しかった。「お掃除をすると、後ろにいて私がした後に同じ事をやり直して……」と良枝さん。「言葉で言えよ、だね」と、きたろうさんが言うと「直接褒められたことはほとんどない。間接的に、親戚の人に“頑張ってるよ”とかね。直接言えよ! って」と笑う良枝さん。朗らかな女将だが、それはまた苦労を経ての笑顔なのだ。
次のオススメは「サワラの昆布〆」。金沢でサワラとは、カジキマグロのことを指すのだという。見た目にも美しいピンクの身は、昆布の旨味をまとい、実に美味しい。「〆ているけど、元がものすごぐ新鮮だもの。金沢の人は、なんでも〆ちゃうんだよね」と、きたろうさん。続いては、加賀野菜のヘタ紫なすを使ったオランダ煮。「加賀野菜って、大抵育てにくいものばっかりで、一度無くなったものを、もう一度復活させているんです」と良枝さん。「うーん美味しい。とっても柔らかいし」「なんか主張がなくて美味いね」「それは、しみじみ美味しいっていうんですよ」と、二人の会話も弾む。さらに石川県の郷土料理「糠いわし」も登場。新鮮なうるめいわしを塩漬けにし、糠や麹で発酵熟成させたもので、強い辛味と香りにハマると、これがないと寂しく感じるという。
良枝さんのご主人、嘉弘さんは9年前に52歳の若さで亡くなった。以来、良枝さんはご主人の骨をペンダントに入れ、肌身離さず身につけているという。「寡黙で真面目な人でした」という良枝さんに、三代目がご主人に似ているか聞くと「仕事に対するスタンスは似ていますよ。主人は継げって言わなかったです。あの人なりに完璧主義だったので、キチンと教えられないのに、店を継がすのは嫌だったと思うんです。もし(三代目が)継ぐってあの時言っていたら、主人は心配で死ねなかったと思いますね」という。父親の働く姿を見て、出汁の作り方は理解していたという三代目は「(先代も生きていたら)美味しくしようとしていたと思うので、味を変えています」という。その仕事ぶりは、良枝さん曰く「姑がいて、次に仕事に真面目な主人がいて、“今度はのびのび仕事ができるわ”と思っていたのに、そしたらもっと厳しいのが……」と、笑う。そんな三代目の作った極上出汁をご飯にかけた「汁かけご飯」が最後の〆。おでんに始まり、おでん出汁に終わる。こだわりの味は、常に高みを目指し変化し続け、70年、80年、そして100年へと続いていくに違いない。