東京都荒川区東尾久。町工場と住宅と商店街の下町で、評判の酒場「もつ焼お好焼 かわかみ」を訪れた一行。カウンターに座り、まずは焼酎ハイボールをオーダー。ニッコニコのご主人・川上忠男さんと、女将の由美子さんから杯を受け取り、常連さんと「今宵に乾杯!」。この店の売りは、屋台から始めたという焼き鳥、もつ焼きといった串焼き。定番のレバとシロを焼いてもらい、これを頬張った西島さん、「うん、カリカリタイプのレバー。サラっとしているけど、甘めのたれがよく絡みますね。シロの味、美味しい!」と満足げ。きたろうさんが「この味は、屋台の頃から変わらないの?」と訊くと、「変わってないと思いますよ」とご主人。「私が23、4歳の頃に屋台を始めた55年前、レバは1本10円でした。屋台も全部自分で作ったんですよ。会社に勤めていると給料しかもらえないけど、商売なら働けば働くほど自分のものになる。手っ取り早くお金が欲しかったんでしょうね。串を刺すのも四畳半一間の部屋で、テーブルを置いて仕込みをして、押入れに布団を敷いて寝ていましたから。」。その味は徐々に評判を呼び、行列ができるほどの人気屋台になったという。
次のオススメは「豚足」。茹でてタレをつけながら食べる、昔ながらの豚足だが、最近では豚足を出す店が少なくなり、西島さんの世代には珍しくなった一品だ。「手でつかんで食べるんだよ」「箸じゃダメよ」と、ご主人と女将に指導されながら食べた西島さん。「なんか、すごいコラーゲン質! ちょっと衝撃。わぁ、プルプルだ」と驚きつつ、骨の周りのわずかな肉まで堪能。気取ることなく、お酒を楽しむつまみが充実しているのが、この店の人気の秘密だ。
32歳で女将と見合い結婚したご主人は「由美かおるに似てたから」と笑うが、女将に言わせると「私には見る目があるの。結婚しても重い荷物はちゃんと持ってくれる」。今もご飯炊きから、トイレの掃除まで、全てご主人がやるというのだから、その目は確かだ。「嫁いだ時は、屋台を引くのだって、ひとつの職業だと思っていたし、よく手伝いましたよ。シロに串を刺すのなんて、もう量が半端じゃない。昼の3時に出るので、それまでに仕込まなきゃいけないから大変ですよ。あと冬が寒くて。スキーソックスを何枚履いても、足のつま先の感覚がなくなっちゃって……」。そこで「苦労してきたね」と言うと「いやいや苦労はしてない。勉強、勉強。苦労なんていう人は、苦労をしてない人だよ」、「そうね、私も一生懸命だったから」と語る二人。そうして、ご主人が45歳の時、自宅を改築して店舗を構えた。
次に出てきたのは、身欠きにしん。「サッと炭で焼くと美味しいんですよ。ガス焼きじゃうまくない」。もつ焼き、豚足と肉が続いたので、にしんが出てきてお腹が落ち着く感じ。「それ食べても“ニんシン”することはないから」という、ご主人のダジャレを聞き、ヒャッヒャッと笑う居心地の良さは、下町酒場ならでは。さらに続いて出てきたのは「げそバター」。バターを焼いた香ばしい香りはもちろん、ネギとバターの相性が抜群。この料理は、ご主人がフライパンを持ち、女将が味をつけた夫婦合作の一品。常連さんによれば、二人は今もラブラブで、喧嘩をしているのを見たことがないと言う。
〆の一品は、女将の実家が深川で営んでいた店の味を受け継ぐ「もんじゃ」。きたろうさんは「まさか、もんじゃが出てくるとは思わなかったな」と驚き、西島さんは「美味しい。お出汁もそうですけど、このソースの味が決め手ですね」と満面の笑顔。〆と言いつつ“焼酎ハイボールをもう一杯!”と言いたくなるような一品だ。最後に店を長く続ける秘訣を訊けば、まずは“元気”だと即答するご主人。「元気があれば笑顔も出る。私が店を始めた時は、三年間休まなかったね。休みたいなら商売はやらないほうがいい。山登りだって休んでばかりいたら頂上に行かないじゃない。休もうと思っちゃダメだよ」。さすが苦労は勉強と言い切るご主人だが、きたろうさんは「人種が違うよ、俺とは」とボソリ。それでもこの店全体を包み込む陽性の雰囲気には、思わず通ってしまう強い魅力がある。