千葉と県境を接する、東京江戸川区小岩。駅から南東へ徒歩8分。「落ち着いた感じの所ですね」「こういうところに店を出して、流行っている店は相当うまいよ」と、一行が向かったのは「素揚げや 小岩店」。オープン6年目の店の大将は、宮崎明さん。カウンターに座って早々に「焼酎ハイボールをもらおうかな」とオーダーすると、大将が「こちらが当店名物の元祖最強レモンサワー。氷の代わりにレモンが凍っておりまして、最後まで薄まりません」と、キンキンのヤツを出してくれる。なるほど、これなら最後まで同じ味。約95%の客さんが注文するというこの一杯(450円・税別、2杯目以降は350円)で、いつもの「今宵に乾杯!」で喉を潤す。「国産の瀬戸田レモンを使っております。こだわるのが好きなんです。なんでもこだわります。素揚げに合う飲み物は、何かっていうので考えたんです」と大将。ならば早速、店名にもなっている素揚げをいただこう!
「揚げのキモは、素材も大事ですけど、とにかく油が綺麗でないといけない」と大将が出してくれたのは、素揚げセットのうちの「砂肝」。調味料は塩だけなのだが、これがうまい!「美味しい! 油の味と旨味と肉汁がすごい。砂肝って肉汁があるんだ。柔らかい、幸せ! びっくりしてます!」と、感動の声を上げたのは西島さん。続いてセットの手羽が登場すると、スタッフが食べやすいように、部位ごとに分けてくれる。手羽先に手羽元、胸肉、ささみ肉。綺麗に分かれた部位を頬張ると、それぞれに異なる味わいが楽しめる。「油が汚いと、こういう風には絶対にならないんです。もう常に新しい油を、毎日変えるんじゃなくて、1日に何回も変える」という大将。さらに「油は大豆の白締油、菜種のキャノーラ油をブレンドして両方の良さを出す。この油のいい温度を見つけるのに、相当時間がかかりました。基本的には二度揚げなんですけど、その温度帯が非常に一番の秘密のところで、カリカリに揚げてるのに、中はしっとりジューシー。柔らかいという、相反することを……」と、ウンチクが止まらない! 肝心の鶏については「鳥取の大山鶏。雛鳥なので柔らかいですが、一方で水っぽくて味が薄い。それを解消するのに、寝かせるんですよ。熟成させる」と、こちらもまたこだわりが詰まっていた。
17歳で高校を中退し、調理師専門学校に進んで京都の日本料理店に就職。厳しい修行の日々を経て、東京の渋谷で懐石料理の店をオープンさせたが、2年弱で経営に失敗。「すごい借金ができて、“もう生きていても”と思いつめたこともあった」という大将だったが、自分には料理しかないという思いを新たに、再び小岩で店をオープンさせた。救ってくれたのは、京都の修行時代に身につけた、安くて美味しい素揚げ料理だった。
次のオススメは「野菜の素揚げ」。かぼちゃに玉ねぎ、人参から、ズッキーニにブロッコリ、トマトまで約10種の野菜が彩りよく素揚げに。特に高温で35〜40分かけて揚げるという玉ねぎの甘み、旨みは感動モノ。「季節にもよりますが、本物の上賀茂の京野菜を農家さんから直送いただいています。野菜も油で揚げるという感覚ではなく、蒸している」のだと大将は語る。そして〆の一品は、卵かけご飯。こだわり屋の大将が選んだ卵は、濃厚な甘みとコクが特長の希少な兵庫県産の卵。これに塩こんぶと薬味、醤油を一挿ししていただく。ご飯好きの西島さんは大喜びで「うわ美味しい! 濃いんだけど、鼻につく濃さじゃない。しつこくないんだよなぁ」と満面の笑顔。最後に、店を続ける秘訣を聞くと「料理が好きであること。それを商売として考えたり、数字として考えるともうダメ。料理が好きってことは、お客様にも伝わるのだから『美味しい』と言ってもらえることが一番。こだわりも、それだけじゃダメですけど、お客様もそれを楽しみにしておられる部分もありますから」と大将。「でも、こだわるとね、金が儲からないんだよねぇ」と、きたろうさんがいうと、「儲からないですねぇ」と共感する大将。しかし、そんな大将だからこそ、常連さんを惹きつけているに違いない。