BS-TBS「〜癒・笑・涙・夢〜夕焼け酒場」 毎週土曜よる6:00〜6:30 BS-TBS 2014/9/27放送 #21 尾張家

戦後から継ぎ足されてきた出汁と「すじ」や「ねぎま」の江戸の味 正統派おでんは神田にあり!
昭和2年創業の名店が守り続ける出汁の味

「なんだかんだ言っても神田」などと軽口を飛ばしながら、一行が訪れたのは東京千代田区神田。スーツ姿のサラリーマンが主役のこの街で、昭和2年の創業以来、おでんの名店として愛されている「尾張家」が今回のお店。高級感が漂うこじんまりとした入り口。家紋と店名が染められた白い暖簾をくぐると、店内は意外にも広い。コの字カウンターの中でキビキビと働くエプロン姿の女性たちのなかで、ひときわ目を引くのが和装に割烹着姿の女将、長江操さん。早速、焼酎ハイボールをオーダーし「今宵に乾杯」と杯を掲げると、店中のお客さんが付き合ってくれる、ノリのいい酒場だ。

「やっぱり最初はおでんですかね。とりあえずは大根だよな、大人は」ときたろうさんが切り出すと、女将が豆腐もすすめてくれる。さらに「コロッケ党としては、じゃがいもを食べないと」と、きたろうさん。皿のおでん3種盛りからは美味しそうな匂いと湯気がふわりふわり。「大根うまい、出汁が……。こりゃ素晴らしい」と最初から大絶賛。「豆腐のおでんってあんまりないですよね」と西島さんが訊けば「他では入ってないと思います。これは夜だけで20個あるかないかだから、予約されちゃうんですよ。豆腐も神田で100年やってるお豆腐屋さんの木綿豆腐です」。箸で割ると、大豆がギュッとつまった豆腐にシュンシュンと出汁が染み入っているのが分かる。「出汁は変えてるよね?」と訊くと「いやいやいや、戦後から変えてません。ずっと継ぎ足してますから、真夏でもおでんをやってるんです」と女将。「だからか。出汁がね全然キツくないのよ。ちょうどいい。辛くないんだよね」。この味になるまで、驚くほどの時間と手間がかかっているのだ。

義父の背中を見て商売を学んだお嬢様

チャキチャキとした会話、早口でポンポンと飛び出すこだわりやうんちくに、生粋の神田っ子と思われがちな女将だが、実は神奈川は三浦半島の生まれ。船元の裕福な家でお嬢様育ちだった女将さんが、尾張家に嫁いで来たのは23歳の時。「私“いらっしゃいませ”って言えませんでしたもん。外で働いてないじゃないですか。だから恥ずかしくって」そんな女将さんを導いたのは明治生まれの義理の父、長江正道さんだった。「頑固って言ったら怒られちゃいますけど、頑固でね(笑)。厳しい人でしたけど、情のある人でした。料理はね、ずーっとそばに立って見て覚えたの。昔の人は教えないから」料理と一緒に、商売に大事な事も教わった。それは我慢。「今の人は我慢っていうのがないけど、昔の人はさぁ、お互いが我慢をしたじゃないですか。これはこうだと言われたら“はい、はい”って言ってさ。義父さんが言う事は絶対ですよ。それを考えると、だんだん男性は弱くなりましたね(笑)」という女将に、言葉もないきたろうさん。

さて次のおすすめを訊くと「江戸っ子のものを食べますか?」と、出されたのが「すじ」。ただ「すじ」と言っても牛すじではなく、サメのすり身。軟骨が入っていて、コリッとした歯ごたえとさっぱりとした味わいが抜群。女将さんによれば、牛すじは関西より西からのもので、江戸の「すじ」はサメなのだという。「じゃあ、これはどう?」と次に出てきたのがねぎま。それもネギの間に挟まっているのはマグロ。トロッとしたネギと脂がのった濃厚なマグロは好相性で、酒がすすむ味。「ねぎまって普通は鶏だよねぇ」ときたろうさんが言うと、「しょうがないねぇ、戦後の人は。鶏を使うようになったのは戦後のこと。昔の江戸っ子はね、トロとか、すじっぽいところは食べなかったもんですから、それをこんな惣菜にして食べたんですよ」という。

先代のご主人からおでんの味を引き継いだ女将さんは、さらに新たなメニューを増やし常連客の心を掴んでいった。名物の穴子の煮こごりもそんな一品だ。見た目も美しいその煮こごりは、まるでフランス料理のよう。そして、淡白な穴子がこんなにも旨味を出すのかと思うくらいに濃厚だ。「これは相当に手間ひまをかけてるね」と、きたろうさん。「これだけ大変なことを続けてたら、今日は働きたくないって日もあるでしょ?」と訊くと「ないね。言い切れますよ。だってこれで食べさせていただいてるんですもの。それに皆さんのお顔を見てれば、元気が出るじゃない」。そんな女将さんの言葉に、尾張家の居心地の良さを感じ取ったきたろうさんと西島さんだった。

尾張家の流儀
その壱

「こんなにお出汁が染みてるお豆腐、初めて食べました」と西島さんが感動した豆腐は300円(税別)。
その弐

昆布、煮干し、かつお節から丁寧にとられた出汁は、透き通って黄金色に輝く。化学調味料は使用していない。
その参

サメの軟骨はコラーゲンがたっぷり。そのプリッとした触感でファンも多い。すじ200円(税別)。
その四

マグロの脂が多いトロなどの部分が好まれるようになったのは、戦後のこと。それまではねぎま鍋などで食べられる庶民の味だった。200円(税別)。
その伍

穴子から出る上質な出汁をたっぷり含んだ、穴子の煮こごり500円(税別)。お酒のつまみとしてはもちろん、ご飯にもよく合う。
その六

「何でこんなにお客さんが来てくれると思う?」というきたろうさんの問いに、「男女関係なく平等に接すること、初めて見えた方にも、同じように接するよう心がけてる」という女将さん。
きたろうさんから、尾張家へ贈る「愛の叫び」 おでんのだしは女将の生きざま。  ———きたろう
「尾張家」
住所
電話
営業時間
定休日
東京都千代田区鍛冶町1-6-4
03-3251-4320
11:30〜13:00、17:00〜22:30
土曜・日曜・祝日
  • ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。

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