「宮城漁師酒場ですって」「いいじゃない、美味しい魚が食べられそう」と、きたろうさん、西島さんが訪れたのは、JR中野駅近く、地階へ降りていく一軒。若きご主人の魚谷浩さんに焼酎ハイボールをお願いし、乾杯を交わして、毎日宮城から直送されるという新鮮な海の幸から、名物の「お刺身満天盛り」をいただくことに。さらに「今日入ったサワラを、少し藁で炙ったものも添えますので」と、ご主人が藁に火を入れ、串打ちしたサワラを豪快に炙り始める。「お刺身満天盛り」は、かんぱちとマツダイ、ソイ、そしてサワラの4点盛り。「サワラはほんのり暖かくて、脂の溶け具合が美味しいと思います」とご主人。「香りの余韻がすごいですね。お醤油をつけると勿体無い」、「魚が新鮮じゃないと、いくら炙ったってダメだもんね」と、二人はその味、腕前、素材を満点評価。
ご主人は兵庫県生まれで、学生時代のアルバイトをきっかけに、四国の大衆酒場で料理を覚えたという。地元関西で独立に向け開業準備を進めていた2011年、東日本大震災が起き、災害支援ボランテイアのため、宮城県石巻市に向かう。住民目線の復興を目指し、石巻市に移住しNPO法人のスタッフとして支援活動を続けたご主人は「中学三年生の時に阪神大震災で被災した経験もあって、いろんな人に助けてもらったけれど、何ひとつ活動することもなく、20年近く過ごしていて……。少しでも役に立てればと思って、宮城に行ったんです。でもボランティアを続けることで、いつの間にか変な責任感を背負って抜けられなくなって。“自分なりに、もっとお手伝いできる表現の仕方があるんじゃないか”と思って行き着いたのが“食”だったんです」。震災から5年後、食を通して宮城の良さを知ってもらうため、お店を開業。その思いは徐々に広がり、連日多くのお客さんが訪れる人気店となった。
次のオススメは「地穴子の白焼き」。肉厚の脂の乗った穴子は、そのままでも、ワサビを付けても絶品。この店では最後に海苔で巻いて、食べることをオススメしていて、これまた絶品。「中の穴子がフワフワで、身が厚いから海苔に負けないね」と驚くと、「そもそも食べている餌が違いますから」と自信満々のご主人。続いては宮城の牡蠣。震災による壊滅的な被害から、復興が進む石巻市荻浜漁港からの直送だ。「今の時期、爽やかな牡蠣が多いのが宮城の特徴で、これから濃厚な牡蠣に変わっていきます。そういう時間の経過も見ていただけるのも、うちの特長です」とご主人。「すごい! ゴクゴク喉がなっちゃう。美味しい!」と西島さんが大感激。そして次に感激したのは、きたろうさん。日替わりの煮付けとして出てきたのは、なんとヒラメ! 「今日は全てが贅沢だなぁ」と唸ると、漁師さんが家庭で食べている煮魚をイメージしているとのこと。元の魚がうまいのはもちろん、素朴で力強い美味しさが、この煮魚にはみなぎっている。
まだ3年目の若い店だが、面白い企画を精力的に行っている。例えば魚屋としての営業もそう。「毎日2時くらいに魚が届いたら、販売できるぶんを外に書き出して、近隣の方に夕食用に買いに来てもらっています」という。また漁師さんが店に来て、接客しながらお客さんと話す「漁師ナイト」を毎月1回開催するなど精力的だ。「宮城を知れば知るほど、日本の四季がよく分かる。その時期にその地域にしかないものをお出しすることで、季節感を分かってもらえる」と語るご主人だが、同時にこうも語る。「2011年に独立しようとしていた時は、飲食店をビジネスとして成功させようと思っていたけど、それは安く仕入れて利益の幅を上げるということでした。でも宮城に行って、漁師さんと友達になって、罪悪感を感じて。食に関わる人間が、漁師さんの価値を下げているって最低だなって。僕もスタッフも生産者も豊かになる、ひとつのきっかけを作りたい。そう思って、今は気持ちよく仕事をさせてもらってます」と語る。最後に、忘れてはならない宮城のお米を使ったおむすびと、お味噌汁で〆。気持ち良いくらいに宮城の食材三昧。これだけ食べて会計も良心的。何よりお客さんを満足させようという心意気。一から十まで芯の通った一軒だ。