「赤頭巾ちゃんみたいな、かわいい女の子がいるのかな?」と、きたろうさん一行が訪れたのは、渋谷の酒場「赤頭巾」。迎えてくれたのは女将の小池純子さん。シャンとのびた背筋に、カジュアルな服装。何より“若かった時は相当に……”と思わせる美人女将だ。きたろうさんが「赤頭巾ちゃんですか?」と聞けば、「あなたが狼さんで?」と返ってくる、この親しみやすさ。思わず通いたくなるのも分かる。まずは焼酎ハイボールで、女将さんと差し向かいで「今宵に乾杯」。最初のおつまみをお願いすると、登場したのは「刺身の盛り合わせ」。女将が“どの刺身も美味しい”と胸を張る、この豪華な一皿に「マグロ、うまい! どれもこれも新鮮。寿司屋に来たみたいだな」、「タコ、ひと噛みしたら、もうおいしい」と、きたろうさんも西島さんも大満足。
店をはじめて50年だが、今35歳だという女将。「もう35歳で終わりなの。それ以上は歳をとらないの。歳をとると思うと、やる気が起きなくなっちゃう」という女将の話を聞きながら、いただいたのは「アサリの唐揚げ」。珍しさに驚きながらも食べてみると……「おいしい! 2、3個食べたらどんどん旨味が出てくる」と西島さん。もともと母方が福岡で造船所をやっていて、お嬢様育ちだという女将。店を始めたきっかけを聞くと、「結婚に失敗して“これは頑張らなくちゃ”と、単身で上京しました。決意がありましたよ。一生懸命お金を貯めて、自分で店をやりたいと思ったんです」という。友達とアルバイトをしようと向かったのは銀座のクラブ。「当時は支度金といってね、200万円くらいくれたの。それから銀座で働きながら、お店の資金を稼ぐために頑張りました。とにかく男性に頼らずにやりたかった。その心意気がないと、なにもできなかったと思う」という女将。それからわずか5年後、27歳という若さでここ渋谷にお店を構えた。
次のメニューは、ニンニクの芽がいっぱい入った「砂肝ニンニク炒め」。甘辛さがちょうどいい加減で、砂肝のコリコリという食感とも好相性。こういうガッツリした炒め物が美味しいと、若い人にもうれしい。きたろうさんが女将に「再婚は?」と尋ねると「店を始めるちょっと前に再婚しましたね。うちの主人は、あんまり働かないんでね。お客さんと一緒に飲んでるか、たまにブラッと来て帰っちゃうタイプなんです」という。きたろうさんは「遊び人だな」とニヤリ。さすが、男性に頼らず生きようと決めた女将、選ぶ男も違う!
続いては「ハムチーズ揚げ」。チーズはトマトが挟んであり、このバランスがまた最高。「贅沢なハムカツだな」というきたろうさんに、「おいしい、サンドイッチ並みの食べ応え」という西島さん。「店をやめようと思ったことは?」と訊くと「一度もないですね。悪くなると“頑張らなくちゃ”って思う。子供をプロゴルファーにしたので……。でも、たくさん儲かる商売じゃないから、もう大変ですよ。葉っぱをちぎるようにお金が出て行きましたもん(笑)」。3人の娘を授かり、その一人がプロゴルファーの小池リサだという。誰か後を継いでくれればとも思うが「3人ともお嫁に行きましたし、後は夫婦2人が食べていければいいわけだから、そんなにガツガツしなくてもね……。従業員の給料だけは払えるように頑張らなきゃいけないけど、それくらいですよ」と女将はいう。
最後の一品は、店の看板にも書いてある「牛すじ鍋」。娘のリサさんの友人で、長尺と短尺パターの二刀流使いでもゴルフファンに有名な、アダム・スコットが唸ったという鍋だ。この鍋は、この店のオリジナルで、ニンニクが効いた醤油ベースの出汁と、6時間煮込んだトロトロの牛すじが自慢。鍋の中では、すでに牛すじがほぐれている状態で、口に入れるとホロっと溶けていくよう。「野菜シャキシャキ。柔らかい牛すじと、ちょうど歯ごたえがアクセントになって、これはたまらん」という西島さんの言葉どおり、対照的な食感に加え、辛味もあって食欲が刺激される。名物料理になるのも納得だ。再開発が繰り返され、変化し続ける渋谷で、こんなに肩肘張らずに通える酒場の存在はありがたい。それも老若男女を問わず満足できるとくれば、ぜひ覚えておきたい一軒だ。