“名は体を表す”というが、それが本当ならば「ハッピー」という名の酒場は名店間違いなしだ。場所は東京葛飾は亀有。昭和59年の創業で、「ハッピー」という名前をつけたのは店を切り盛りする女将・由紀子さん。「みなさんがハッピーになれますように」との願いからだが、常連さんによれば「ハッピーに連れてくって言うと、スナックに連れていかれると思われた」とか「法被(ハッピ)のことだと思ってた」など、この店の名前だけで話が盛り上がる。確かに、ハッピーという名前は、この店に楽しい風を吹き込んでいるようだ。
きたろうさんの音頭で乾杯をすませ、最初のおすすめをお願いすると、「じゃあコレ!」と、ご主人の古山藤雄さんが指差したのは、カウンターのツブ貝の煮付けの大椀。さらに出してもらった椀が「これで1人前?」と聞き直すほどの量! このツブ貝は北海道は厚岸産で、襟裳の荒波で育ったその食感はアワビにも負けないという。味付けはシンプルに醤油とみりんと酒で。コレさえあれば、いくらでも飲めそうな一品だ。次の料理は「これは自信があるんですよ、養殖ものを一切使ってないんで」とご主人が胸を張るお刺身。ぼたんえび、まぐろ、〆サバの3種盛りを目にして、「これちょっと手で食べてもいいかな〜?」とぼたんえびをパクリと口に含んだ西島さんは、「うわ〜、とろんとろんですよ」と大感激。その刺身にはご主人の強いこだわりがあった。
昭和36年に中学卒業と同時に、青森から集団就職で東京に上京したご主人。就職先は女将の実家だったお米屋さんで、出会って18年後に二人は結婚。釣り好きが昂じて、昭和59年に米屋を閉め、今のお店を開くことに。うまい魚を食べさせたいという思いから自ら仕入れをしていたが、今は息子の堅一さんに任せている。そんな二代目の事を「音楽で食ってくって、一回家を出てね(笑)。それだったらって、道具、ドラム?を駐車場へ放り出して。そしたら雨が降ってきて、また自分で仕舞って(笑)」と当時の思い出を語るご主人。今は父であるご主人のもと、腕を磨く日々だ。「市場でこれは養殖、これは天然って教えて。でも時々間違えて俺にゴミ箱に捨てられてね。そうじゃないと覚えないですよ」と、ご主人。「市場では天然って言われたんですけどね……」と二代目が言うと「生け簀の周りでこぼれた餌を食ってるヤツは養殖と一緒。色から全部、天然ものと違うんだ。あとは包丁入れて出る脂が違う。養殖はギットギトに包丁に絡んでくるから。もう絶対に養殖ものは売らせないよ」。そんなご主人のこだわりを、嬉しそうに聞き入る常連さんが印象的だった。
修業を始めて5年になる二代目が得意とする「マグロステーキ」が、次の一皿。特製のタレに漬け込み、サッと焼き上げたマグロに「ショウガのこの香りが、何とも言えない!」と、きたろうさんが絶賛! 鉄皿に乗って登場する一品だが、焼き上がりはレアで、刺身の感じが残っていて美味。そして最後の一皿、「これは必ず食べて帰れ」というメニューへ……。そこで常連さんに「びっくりこくよ」と煽られて登場したのが、グツグツ煮立つ大きな土鍋。中にはぶつ切りの毛ガニが丸一匹入った、これぞ自慢のハッピー汁。この鍋の出汁は、前日に残った魚からとっており、日によって味も中身も異なるという。しかし目利きが選んだ魚からとった出汁だけあって、上品にして濃厚。酔った体にシュンシュンと染みていくうまさは、何物にも代え難い。また、ホロホロの毛ガニの身のおいしいこと! お店を長く続けるコツをご主人に聞くと、即座に「常にいいものを揃えてかないとダメ」と返ってくる。「いいものがないんですよ、今ね。漁師がみな年取っちゃって。だから天然の魚ばっかりでどこまで商売が持つか。こいつの時はそういう商売ができるかどうか」と二代目を見るご主人。しかし二代目はこう答える「できる限り、この店のスタイルを維持したいんです。今の常連さんも、このスタイルが好きで来てくれてるんで」。その言葉に、料理人として大切なものが、しっかりと受け継がれているように感じられた。。
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大きな器にたっぷり入ったツブ貝煮は650円(税抜)。これだけを食べにくるお客さんがいるほどの人気メニュー。
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この日の刺し盛りは、ぼたんえび、まぐろ、〆サバの3種で2,000円(税抜)。千住の市場で、今は二代目が仕入れを担当する。
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大きな土鍋に浮かぶ毛ガニ、その見た目だけでたまらない。出汁は前日に残った魚を使うため、味は日により異なる。2,700円(税抜)。
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素材に自信があるからこそ、正直な商売を守る。そうすることでお客さんとの信頼関係はさらに深まっていく。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都葛飾区亀有5-28-6
03-3620-6654
16:30〜23:00
日曜、祝日
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