毎日仕入れるマグロの希少部位は目利きならでは
魚屋だった父親のこだわりを守り続ける
創業45年目を迎えた老舗酒場
マグロの希少部位を使った絶品料理に舌鼓!
今宵の舞台は千葉県浦安市。現在その4分の3を埋立地が占める浦安市は、昭和39年に埋め立てが始まる以前は漁業で栄えた街だった。昭和44年に地下鉄東西線が全線開通し、街が発展しつつあった昭和48年に創業した「三ぶちゃん」が今日の酒場。歳月が醸し出す味のある雰囲気の中、きたろうさんたちはさっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
二代目主人・醍醐(だいご)勝美さんの最初のおすすめは、マグロの希少部位を使った「本日の二点盛り」(この日は、脳天・ほほ肉)。マグロの頭部から2本しか取れない脳天の刺身に「きれいな色。旨そうだなぁ…」と、思わず喉が鳴るきたろうさん。醤油をつけて口に運ぶと「大トロだよ! 脂身がすごい」と感激。ネットリとした食感にうっとりする西島さん。赤身のようなほほ肉は加熱することが多いそうだが、新鮮なものが手に入ると、お好みでごま油をつけて、刺身としてもいただける。「これはまぐろじゃない、お肉だな」ときたろうさんも驚く旨さ。そんな希少部位を手頃な値段でいただけるのは、「特別なルートで卸してもらっているから」とのこと。「店を開業した父親はもともと魚屋だった」というから、魚の仕入れに強いのも納得だ。
39歳まで都内で魚屋を経営していた先代の父・三郎さんは、40歳で生まれ育った浦安に戻り、母・栄子さんと酒場を開業し、街の発展とともにすぐ人気店となった。
「親父は仕事しながらお酒を飲んじゃうクチで、常連さんと飲んで酔っ払うと、知らないお客さんが来ても『お前誰だ? 帰れ、帰れ』なんて言っちゃって」と苦笑するご主人。「時代だなぁ。そういう破天荒な男、今いないよね」ときたろうさんもしみじみ。
ここで先代の味を受け継ぐ「もつ煮込み」が登場。一口食べて「こっちの方がマグロの味がする(笑)」ときたろうさん。「モツの味ですよ」と西島さんが突っ込むも、余計な脂を取り除いて作る先代直伝のさっぱりした味は、きたろうさん曰く「マグロ好きのモツ」だそう!? 15年来の常連客も毎回頼む一品で、帰省の際にはお土産に実家へ持ち帰り、「肉嫌いな姉もこれだけは食べられる」のだとか。
店を残してくれた両親への感謝と暖簾を守り続ける思い
本日の二点盛り
母・栄子さんについては「親父よりおっかなかった。芯がしっかりしていて」とご主人。会計を任され、店を切り盛りしていたのも栄子さん。「築地での仕入れも親父をちゃんと管理していました。でも締めすぎると親父がヘソ曲げるんで、その手綱さばきはおふくろにしかできなかった」。そんな母のぬか床を60年以上維持している「ぬか漬けきゅうり」はシャキシャキとして箸休めにぴったりの一品だ。
「最近残念なくらい親父に似てきた」と笑うご主人だが、高校卒業後は定職に就かずアルバイトを転々とし、両親に迷惑をかけた時期もあったという。店を継ぐ決心をしたのは21歳の時。父と店に立つようになるとぶつかることも多かった。8年前に父が他界し、3年後に母も亡くなり、「厳しい時もありましたね。親父が歳をとって具合が悪くなった頃から、常連さんたちも同じように年を重ねて来られなくなって」。それでも続けられた秘訣は「気どらなかったことですかね。格好つけたことはしない」。ひとりで厨房に立つようになって10年。マグロにこだわるのも、父の目利きや調理法を間近で見て学べたからだという。
次の一品もマグロの希少部位。エラ部分の肉に塩を振って軽く炙る「カマトロ炙り」だ。「脂がのってる〜。チューハイが進む!」と西島さん。あまりのおいしさに「贅沢だねぇ、今日だけ特別なんじゃないの!?」とふたりの興奮が止まない。
続いて最後の締めも「ほほ肉のスタミナ炒め」ときた! 刺身で食べたマグロのほほ肉をにんにくの効いた自家製ダレで炒める。「いい匂い!お肉にしか見えない。噛んだときの柔らかさも抜群!」と絶賛の西島さん。「マグロ恐るべし」ときたろうさんも唸るしかない。
ご主人は妻と子供2人の4人家族。18歳の息子さんは時々店を手伝ってくれるそうで、「楽しみですね」と言う西島さんに、照れながらもうれしそう。両親に対しては「商いの糧としてこの店を残してくれてありがたいなと思います。若い頃はそんなの知るかよ、なんて思ったけれど、今となっては恵まれているなと」。酒場は「仕事の疲れをとって気持ちを切り替えられる場所でありたい」というご主人。こだわりの絶品マグロ料理の数々が、今宵も訪れる人の疲れを吹き飛ばしてくれるに違いない!