青森出身の大将が自慢の腕を振るう
天ぷら一筋43年の絶品天ぷらを堪能!
地元深浦湾直送の新鮮食材にも舌つづみ
大将の飾らない人柄にほっこり
今やすっかりオフィス街となった、東京メトロ丸ノ内線の中野坂上。「様変わりしたね。昔は何もなかったよ」と、きたろうさんも良く知る街で今宵訪れるのは平成12年創業の「天ぷら処 天ふね」。店に入ったきたろうさん、常連客のひとりと顔をあわせてビックリ! 「何!? おまえ、何してんの!」。なんと、かつて一緒に仕事をした関根サーカス(昭和51年〜57年)の元団員・二階堂明美さんと遭遇。開業当初からの常連だという。シティボーイズ結成前に関根サーカスでピエロのアルバイトをやっていたきたろうさん。思わぬ再会で昔話に花を咲かせながら、まずは焼酎ハイボールで、みなさん一緒に「乾杯!」。
店を一人で切り盛りするのは、青森県出身のご主人・福沢広光さん(61歳)。最初のおすすめは、地元深浦港直送の「水だこ刺し」だ。大ぶりのたこを噛みしめて、「おいしい〜」と舌つづみを打つ西島さん。「奥深い味。港で食べる味だな」ときたろうさんも感激する。
日本海側の青森県深浦町で生まれ育ったご主人は高校を卒業後、すぐに上京。新宿にある天ぷらの名店「つな八」で働き始める。24年間修業に励み、料理の腕をみがいて、42歳で店を開業した。「同郷者が多かったから、いまだに言葉が直らない」という温かみのある話し方は、「新宿のすぐそばなのに、田舎に来たみたい」と、きたろうさんたちをほっこりさせる。ずっと独身のご主人。「店を持つか、結婚が先か迷った。店が軌道に乗ったら、嫁さんもらおうと思ったのに、軌道に乗らなかった(笑)」
ここでお待ちかねの「天ぷら」が登場。「素材は二流、腕は一流!」と茶目っ気たっぷりながらも、修業時代から舌の肥えた客をうならせてきた確かな腕に自信があふれる。この日は、海老、きす、深浦産のふきのとう。「揚げたて! 身もぎっしり」と海老天を頬張る西島さん。「こうやって酒飲むの贅沢だねぇ。ふきのとうもうまいっ」ときたろうさんもご満悦だ。
「さすが一流だね」ときたろうさんが言うと、「天ぷらは、落としたころもが鍋底についた瞬間に上がってくるくらいが適温」と実演しながら、「揚がったかどうかは耳で分かる。具材の水分が抜ける前と後で音が変わるから。水分が抜けるとカラっと揚がるの」。長年の経験を元に最高の状態に仕上がった天ぷらを音で聞き分けるのだ。
お客さんもスタッフもみんなが笑顔になれる店
黄金袋
はまぐりを殻ごと天ぷらに!?
次のおすすめは、ご主人考案の「黄金袋(こがねぶくろ)」と「はまぐりの天ぷら」。油揚げの中に温泉卵とネギを入れて揚げるボリューム満点な「黄金袋」に自家製天つゆをかけて豪快にかぶりつけば、濃厚な卵がとろりっとあふれ出んばかり。「これうまいね! 」ときたろうさんも絶賛。「温泉卵を入れるのは僕のアイデア。“天ぷら技術コンクール”で優勝したんだよ」と無邪気な笑顔で腕自慢。
続いて「はまぐりの姿揚げ」は、殻ごと揚げた驚きの一品。「うそ〜、衝撃的!」と驚く西島さんだが、一口食べると「おいしい。中に入ってる椎茸に味が沁みて、一緒に食べるとさらにおいしくなる! 」と大絶賛。貝殻に椎茸とはまぐりを乗せて殻ごと揚げるのは、ふっくら蒸すためだそう。「理由があるんだ。さすがだな」ときたろうさんも感心しきり。
店を続ける秘訣は「儲けようとしないこと!」。「だから値段は最低限。でも本当は失敗したね。もうちょっと高くしときゃよかった」と笑うご主人に、「東北魂出ちゃったね」ときたろうさんも笑う。
店内に飾られた深浦の美しい風景写真は、実家の玄関前で撮ったものだとか。海を見渡す素晴らしい絶景に、「こんな所からいきなり上京して、どうでした?」と西島さんが聞くと、「信号が多すぎて首は痛くなるし、バスの降り方も分からなかった。びっくりするし怖かった」と当時を振り返る。
次の一皿は深浦直送の「もずく酢」。「土地のものが食べられるのはうれしいねぇ」ときたろうさん。歯ごたえと粘りが特徴だそうで、「食感が全然違う! コリコリ。もずくの概念が変わるね」と大感激。
そして最後の締めには、好きな具材で「お好み天丼」を。海老のかき揚げ、舞茸、茄子を乗せていただくと、「天つゆで食べる天ぷらもおいしいけど、天丼の甘いつゆで食べるのもおいしい!」と、西島さんはもうほっぺたが落ちそう!?
今まで一番苦労したことを尋ねると、「苦労は忘れるんだよな。また新しい苦労が出てくるから。ずるずると引きずらない」というご主人に感心するふたり。「酒場はいろんな人が集まる場。いろいろ話ができて知り合いにもなれる」。ご主人の確かな腕と飾らない人柄が“いい味”を醸し出す、また来たくなる酒場だった。